WINEP

-植物鉄栄養研究会-


NPO法人
19生都営法特第463号
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植物の生育ステージとメラトニン濃度依存性が水田土壌におけるイネの金属-栄養素動態を駆動する

Date: 2025-05-18 (Sun)

アメリカで市販の睡眠薬であるメラトニンを、実は植物も生産しており、様々な環境ストレスに対して抵抗性を与えるという研究がなされている。そのことを、恥ずかしながら小生はこの論文で初めて知った。以下のAIで検索した3点の総説によれば、諸外国では主として果樹園芸方面で使われている様である。日本での植物への施用は、小生が不勉強のためか、聞いたことがない。おそらく薬事法の関係で人体への乱用を恐れて、農水省が認可していないのではないだろうか。
この論文の引用文献を見ても、麻薬に対する比較的寛容と思われる中国でのメラトニンの植物への施用研究の論文数が群を抜いているようだ。

• 「メラトニン研究の歴史」(飯郷雅之)
• 「メラトニン:果実作物の発育と生物的ストレス応答における多機能調節因子」
• 「メラトニン:植物の発達とストレス応答のマスターレギュレーター」


植物の生育ステージとメラトニン濃度依存性が水田土壌におけるイネの金属-栄養素動態を駆動する

Plant growth stage and melatonin concentration dependency together drive the metal-nutrient dynamics of rice in paddy soil

Saiqa Menhas、Minjie Chen、Hui Jin、Jiang Xu、Saiyong Zhu、Daohui Lin、

International Journal of Phytoremediation
ISSN: (Print) (Online) Journal homepage: www.tandfonline.com/journals/bijp20

要旨
メラトニンの葉面散布は、イネの酸化ストレスを緩和する上で有望であるが、金属-養分動態への影響はまだ不明である。本研究では、カドミウム(Cd)およびセレン(Se)が濃縮された土壌で栽培されたイネにおいて、元素の取り込みを調節し、酸化還元ホメオスタシスを維持し、養分動態を管理するためのメラトニンの最適な投与量、時期、濃度を調べた。メラトニン(50, 200 &#181;M)を生長段階(接合期(J)および分蕨期(T))に散布した。Jステージでは、メラトニンはバイオマスと光合成色素を改善したが、酸化還元ホメオスタシスが不完全であったため、金属-栄養素動態の調節は不十分であった。しかし、T期に200 &#181;Mのメラトニンを散布すると、Seと鉄(Fe)の根への取り込みがそれぞれ48%と11%有意に促進され(p < 0.05)、同時にシュートの転流も改善した。特に、M200はクロム(Cr)のシュートへの移行を82%減少させ(p < 0.05)、根の保持能力を向上させた。さらに、50μMのメラトニンは根へのカドミウムの取り込みを54%減少させ、芽への移行を53%増加させた(p < 0.05)。メラトニンの散布は酸化ストレスマーカーを減少させ、プロリンレベルを上昇させ、抗酸化酵素活性を高め、T期のM200は顕著な効果を示した。この戦略は、イネ栽培における元素ホメオスタシスを管理するための有望な技術的アプローチである。

新規性
本研究は、カドミウム汚染水田土壌で栽培されたイネにおいて、植物の生育ステージとメラトニン濃度が金属-栄養素動態に及ぼす影響に関する先駆的な調査である。この研究では、異なる生育ステージにおけるメラトニンの葉面散布が、有害元素(Cd、Cr)と有益な栄養素(Se、Fe)の取り込みと移行にどのような影響を及ぼすかを探求している。この研究により、酸化還元ホメオスタシスと元素調節のメカニズムに関する新たな知見が得られた。
その結果、分蕨期にメラトニンを散布すると、特に200μM L-1の濃度で、抗酸化酵素活性が増強され、酸化ストレスが緩和され、植物の新芽における有害金属の蓄積が抑制される一方で、有益な元素の取り込みが有利に変化することが示された。
この段階-濃度依存性は、メラトニンの正確なタイミングと投与量が、金属毒性に対するイネの回復力をどのように最適化できるかについての新たな理解を明らかにし、汚染土壌における的を絞った農業介入への道を開いた。

ハイライト
- イネの元素ホメオスタシスを管理する有望なアプローチが開発された。
- 分蕨期(T)にメラトニンを散布することで、抗酸化物質を活性化し、酸化ストレスを軽減する。
- このアプローチは、水田土壌にカドミウムとセレンが共存している場合、元素調節を強化し、植物の生産性を促進する。


(以下Cdによる鉄とSeの吸収阻害をメラトニンが回復する効果についての第2図のみを示しておいた。)

図2.メラトニンの適用により、汚染水田土壌下のイネにおけるSeとFeの蓄積(BaC)、SeとFeの取り込み(BCf)、SeとFeの転流因子(tf)が変化した。(a)根および芽におけるSe BaC;(b)根および芽におけるSe BCfおよびSe tf(根-芽);(c)根および芽におけるfe BaC;および(d)根および芽におけるfe BCfおよびfe tf(根-芽)。t-CdおよびJ-Cd:0.01% tween-20で処理した対照植物(メラトニン不使用)、t-Cd + m50およびJ-Cd + m50:tおよびJ期に50μmのメラトニンで処理した植物、t-Cd + m200およびJ-Cd + m200: t-Cd + m200およびJ-Cd + m200:t期およびJ期に200 &#181;mのメラトニンで処理した植物。異なる文字を共有するすべての平均は、p < 0.05レベルで有意に異なる。

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図2

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メラトニンの構造式(Wikipediaより引用)