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-植物鉄栄養研究会-


NPO法人
19生都営法特第463号
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無機態窒素はダイズ根粒における NRAMP2 を介した鉄供給を阻害することで共生窒素固定を阻害する

Date: 2024-12-12 (Thu)

植物栄養学の分野で、ダイズ根粒の窒素固定に肥料として与えた無機チッソが阻害的に働くことは常識であった。その際無機窒素がダイズ根粒の鉄(Fe)ホメオスタシスを破壊し、SNF効率の低下につながることを明らかにしたものである。
日本ではダイズの一生を通じて、空中窒素固定による窒素の供給か、無機態窒素肥料による窒素供給のいずれが最終的にダイズ種子の収獲に寄与するかは論争が行われてきたところである。筆者の記憶では、生育初期を窒素固定で補い、生育後期を無機態窒素肥料で補うのが最適解である、という結論だったと思う。当時は無機窒素が与えれれれば、根粒が窒素固定流する必要がなくなるのでさぼるのだろう、ぐらいの生理学的解釈だったと思う。
この論文では「無機窒素が根粒への鉄輸送阻害する」という面白い知見を示している。
旧くて疑問に思っていなかった課題に挑戦してくれたものである。
  
  
無機態窒素はダイズ根粒における NRAMP2 を介した鉄供給を阻害することで共生窒素固定を阻害する

Inorganic nitrogen inhibits symbiotic nitrogen fixation through blocking NRAMP2- mediated iron delivery in soybean nodules

Min Zhou1, Yuan Li, Xiao-Lei Yao1,Jing Zhang , Sheng Liu, Hong-Rui Cao, Shuang Bai , Chun-Qu Chen, Dan-Xun Zhang , Ao Xu , Jia-Ning Lei, Qian-Zhuo Mao , Yu Zhou, De-Qiang Duanmu , Yue-Feng Guan & Zhi-Chang Chen

マメ科植物-根粒菌の共生的窒素固定(SNF)は、農業における持続可能な窒素源である。しかし、無機態窒素肥料の添加は窒素固定を著しく阻害する。ここでは、無機態窒素がダイズ根粒の鉄(Fe)ホメオスタシスを破壊し、SNF効率の低下につながることを報告する。GmNRAMP2aおよび2bは、感染していない根粒組織のトノプラストに主に局在しており、感染細胞への鉄の移動に影響を与え、結果としてSNF効率を調節する。さらに、GmNRAMP2a&2bの発現を負に制御する一対の窒素シグナル制御因子、窒素制御GARP型転写因子1aおよび1b(GmNIGT1a&1b)を同定した。この発見は、ダイズが変動する無機態窒素条件に応じて、鉄の配分を通じてSNF効率を調整するもっともらしいメカニズムを明らかにし、マメ科植物を用いた農業システムにおける窒素および鉄の管理を最適化するための貴重な知見を提供するものである。
 
 
以下図1と図8のみ訳した。
 
図1|無機態窒素は根粒の鉄ホメオスタシスを破壊し、共生的窒素固定(SNF)を阻害する。
a-d 根粒における無機態窒素の影響による鉄蓄積とSNF。21dpiの根粒を高N養液(H-N)に0, 1, 2, 3, 4日間移植し、(a)perls/DAB染色による根粒中のFe分布を含む関連パラメータを測定した。8 個の独立した根粒切片を調査し、一貫した結果が得られた。b 固定区における perls-DAB 染色のシグナル強度 c 結節のウレイド輸出率 d 根粒の共生体中の Fe 含有量 e-g 高 Fe 供給は SNF に対する無機 N の抑制効果を緩和した。7dpiの根粒を様々な鉄条件下で12日間生育させた後、H-Nで2日間処理し、(e)根粒のウレイド輸出率などの関連パラメータを測定した。 f, g 感染細胞におけるRFP発現根粒菌の占有率。シアンは細胞壁からのシグナル、赤はRFPタグを付けた根粒菌。白い点線の画像は感染細胞を拡大したもの。20の独立した根粒切片を調査し、一貫した結果が得られた。スケールバーは100μm。(g)の括弧内の数字は、供給された鉄濃度を表す。(b-f)の箱は第1四分位数と第3四分位数を示し、ひげは最小値と最大値を示す。n = 8 (b), 6 (c), 7 (e), 20 (f) 生物学的に独立した複製、または 3 (d) 独立したプール。) (b-f)中の異なる文字は、両側Tukey検定に従った多重比較検定で有意差が認められたことを示す。
 
図8|ダイズ根粒におけるNIGT1-NRAMP2制御モジュールの提案モデル。鉄は、アポプラスティック(a)およびシンプラスティック(b)のアプローチにより、根粒脈管構造から感染細胞へとアンロードされる。GmNRAMP2a&2bはともに未感染組織のトノプラストに局在する鉄流入トランスポーターであり、感染細胞への鉄移動を促進する。GmNRAMP2a&2bは、無機態窒素が十分な条件下では、感染していない組織ではNシグナル制御因子GmNIGT1a&1bによって発現が抑制され、共生的窒素固定(SNF)への鉄の移行が阻害される。GmVTL1aはSNF21の共生体への鉄輸送を促進する。

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図1 無機態窒素は根粒の鉄ホメオスタシスを破壊し、共生的窒素固定(SNF)を阻害する。

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図8 ダイズ根粒におけるNIGT1-NRAMP2制御モジュールの提案モデル。