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-植物鉄栄養研究会-


NPO法人
19生都営法特第463号
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ヒ素ストレスを受けたイネ(Oryza sativa L.)のOsWRKY71を制御することにより、鉄は根系構造を再プログラムする

Date: 2024-02-22 (Thu)

ヒ素ストレスを受けたイネ(Oryza sativa L.)のOsWRKY71を制御することにより、鉄は根系構造を再プログラムする

Iron reprogrammes the root system architecture by regulating OsWRKY71 in arsenic‑stressed rice (Oryza sativa L.)

Zainab Mirza ・ Meetu Gupta
  
Plant Molecular Biology (2024) 114:11

要旨
鉄(Fe)は、根の発生過程に関与する分子機構を活性化させるシグナルとして働くと解釈できることが批判的に報告されている。ヒ素(As)は、根の構造を変化させることによってイネの成長と生産性を制限するメタロイドとして知られている。Asストレス下での根系構築(RSA)は、WRKY転写因子(TF)とその相互作用パートナーを標的としていることから、本研究では、RSAの鉄依存的な動態とそのプロセスへの関与をより深く理解することを目的とした。ここでは、水耕栽培した12日齢のイネの根に、AsとFe(単独または併用)を曝露した場合の影響を解析した。その結果、鉄にAsを添加することで、OsWRKY71の発現が変化し、RatnaおよびLalat品種のイネの根の形態と解剖学的構造が改善することがわかった。また、As + Fe 処理は生化学的パラメータにも影響を与えた。OsWRKY71は、両品種とも対照品種と比較して、発現量が増加し(鉄単独および鉄+鉄条件)、発現量が減少した(鉄+鉄条件)。根の解剖学的構造および根の酸化性が改善されたことから、ララト品種はラトナ品種よ りも OsWRKY71 を誘導する能力が高く、As + Fe 処理中に RSA をより良好に発達させることが示された。さらに、OsWRKY71 のプロモーター領域にはジベレリン応答性シス制御エレメント(GAREs)が存在し、OsWRKY71 がジベレリン経路に関与していることが明らかになった。分子ドッキングの結果、OsWRKY71とSLR1(DELLAタンパク質)が正の相互作用を示すことが明らかとなり、Asストレスイネにおいて、鉄がジベレリン経路を介してOsWRKY71を制御することによりRSAを変化させるという仮説を支持する結果となった。
  
結論
本研究では、鉄の補給が As ストレス時の OsWRKY71 発現を制御することで RSA を改善すると結論づけた。
また、SLR1(SLENDER RICE 1、DELLA遺伝子)がOsWRKY71と相互作用することを明らかにし、両者の相互作用が活性酸素レベルを調節することにより、ROなどの根の成長適応応答や細胞膜の完全性を制御している可能性を示唆した。

図1の説明
Asストレス下でのFe補給による解剖学的変化を示すイネの根の横断面 (a) Ratna-C、As、FeおよびAs + Fe (b) Lalat-C、As、FeおよびAs + Fe。この図は、FeおよびAs + Fe処理した根細胞の周囲にFeプラークが茶色く形成されていることも表している。スケールバーは25 μm

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図1