WINEP

-植物鉄栄養研究会-


NPO法人
19生都営法特第463号
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総説  HY5:植物による光を介した養分の取り込みと利用の重要な調節因子

Date: 2024-01-18 (Thu)

これまでHy5による総合的な栄養素の取り込み関与に関しては、述べられてこなかったと思われるので、意義ある総説かと思われる。

Tansley insight

HY5:植物による光を介した養分の取り込みと利用の重要な調節因子

HY5: a key regulator for light-mediated nutrient uptake and utilization by plants

Samriti Mankotia, Pooja Jakhar and Santosh B. Satbhai
Department of Biological Sciences, Indian Institute of Science Education and Research (IISER), Mohali, SAS Nagar, Punjab, 140306,India

New Phytologist (2024)
doi: 10.1111/nph.19516

概要
ELONGATEDHYPOCOTYL5(HY5)は、bZIP型転写因子であり、光を介した応答のマスターレギュレーターである。ELONGATEDHYPOCOTYL5は、約3000の遺伝子のプロモーターに結合し、光形態形成、フラボノイド生合成、根の発達、生物学的ストレスへの応答、栄養恒常性など、様々な生理学的・生物学的プロセスを制御している。ここ数十年、光シグナル伝達が養分の取り込みと同化を促進する上で重要な役割を果たしていることが明らかになってきた。最近の研究では、このような促進効果の根底にある分子メカニズムや、多くの光受容体によってその活性が制御されている転写因子HY5の重要な機能が明らかになってきた。HY5が、窒素、鉄、硫黄、リン、銅の取り込みと同化に関連する遺伝子を含む、養分の取り込みと利用に関与する遺伝子の発現を直接活性化するという発見は、光シグナルが植物における複数の養分の取り込みと利用を制御する仕組みについての理解を深めるものである。ここでは、光依存的な養分の取り込みと利用におけるHY5の役割に関する最近の進歩について概説する。
  
(図1の説明) ELONGATED HYPOCOTYL 5を介した栄養の取り込みと同化の制御。
ELONGATED HYPOCOTYL 5(HY5)は、炭素と窒素のホメオスタシスの調整に関与している。光は新梢におけるHY5の蓄積を促進する。HY5はSWEETsとTPS1(スクロースのシュート-根間輸送とスクロース代謝に関与)の発現を活性化し、シュートでの炭素同化と転化を促進する。シュートに蓄積されたHY5は根に移動し、根のHY5の発現を活性化する。根では、HY5はスクロースレベルに依存するNRT2.1の発現を活性化することによって硝酸塩の取り込みを促進する。HY5は転写活性化因子と抑制因子の両方として作用し、硝酸塩の取り込みと同化を制御する。NIA2、NIR1(硝酸同化に関与)の発現を正に制御し、NRT1.1、AMT1.2(窒素取り込みに関与)の発現を負に制御する。ELONGATED HYPOCOTYL 5もまた、窒素と硫黄の同化を調整している。窒素欠乏下では、HY5は硫黄の取り込みに関与するSULTR1;2の発現を誘導する。さらに、HY5はAPR1とAPR2(硫黄同化に関与)の発現を誘導することにより、硫酸同化に正の影響を与える。ELONGATED HYPOCOTYL 5は、赤色光に対して下流で作用し、リン取り込み遺伝子PHT1;1の発現を正に制御することにより、リンの取り込みを制御する。トマトでは、phyBによって感知された赤色光は、シュートでHY5を活性化する。HY5はシュートから根に移動し、鉄の取り込み制御に関与するFERの発現を正に制御することにより、鉄の取り込みを誘導する。シロイヌナズナでは、HY5は転写活性化因子と抑制因子の両方として働き、鉄のホメオスタシスを制御している。HY5は、FRO2、FIT、IRT1を含む鉄の取り込みに関与する遺伝子の発現を正に制御する。BTSとPYEの発現を負に制御する。BRUTUSはFe取り込み遺伝子の負の制御に関与し、PYEは転写抑制因子として働き、Feの輸送、貯蔵、同化に関与する遺伝子を制御する。ELONGATED HYPOCOTYL 5は、SPL7とともに作用して銅レベルの調節に関与するMIR408を転写制御することにより、銅のホメオスタシスを調節している。

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図1