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-植物鉄栄養研究会-


NPO法人
19生都営法特第463号
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鉄のホメオスタシスとカドミウム抵抗性におけるIMAペプチドの機能

Date: 2023-10-11 (Wed)

これまでIMAペプチドとカドミウムの関係について誰も言及してこなかったと思う。この論文はその穴場を狙ったものと言えよう。


鉄のホメオスタシスとカドミウム抵抗性におけるIMAペプチドの機能

IMA peptides function in iron homeostasis and cadmium resistance

Ruonan Wang a,b , Yuchen Fei a,b , Yilin Pan a,b , Peijun Zhou a,b , Julius Oluwaseun Adegoke a,b , Renfang Shen a,b , Ping Lan a,b,* a State Key Laboratory of Soil and Sustainable Agriculture, Institute of Soil Science, Chinese Academy of Sciences, Nanjing 210008, China b University of Chinese Academy of Sciences, Beijing 100049, China
   
Plant Science 336 (2023) 111868
  
(要約)
必須微量栄養素である鉄(Fe)は、光合成、呼吸、その他多くの酵素反応に関与している。
対照的に、カドミウム(Cd)は事実上すべての生物にとって有毒な元素である。鉄の欠乏と
カドミウムの毒性は、農作物の成長と生産性を著しく損ない、ついには人間の健康問題にまで発展する。
植物がどのように鉄の取り込みとホメオスタシスを制御し、カドミウム毒性と闘っているのかを理解することは、鉄を豊富に含むがカドミウムは除去された胚珠を人間のために開発するために必須である。シロイヌナズナやイネを用いた最近の研究で、以下のことが明らかになった。
IRON MAN (IMA)ペプチドが、ユビキチンと競合的に相互作用することによって、鉄欠乏に対応するための重要な調節因子であることを明らかにした。
ユビキチンE3リガーゼと競合的に相互作用することで、IVcサブグループのbHLH転写因子(TFs)の分解を阻害する。
IMAの高発現は、シロイヌナズナおよびコムギの両方で、鉄欠乏を活性化することによりカドミウムストレスに対する耐性を与える 。ここでは、IMAペプチドが鉄欠乏応答において機能し、鉄のホメオスタシスを達成し、カドミウム毒性と闘うファイトレメディエーションの潜在的な候補であるということを議論する。


(以下は図の説明)
図2. IMAペプチド遺伝子活性の制御。
鉄分の充足下では、IMAペプチド遺伝子の基礎発現は非常に低いか検出限界以下であるため、図には示していない。IMAペプチド遺伝子の発現は、シロイヌナズナ(左)とイネ(中央)では劇的に誘導され、コムギ(右)ではわずかだが有意に誘導される。シロイヌナズナでは、AtIMAの発現は主にURI/bHLH121とIVc bHLH TFの1つとの相互作用によって制御されている。エチレンはポジティブに、LODIS(長距離鉄シグナル)とBTSはネガティブにAtIMAの発現を転写制御する。AtIMAペプチドのターンオーバーは、26Sプロテアソームマシンを介したE3リガーゼBTSによって制御されている。イネでは、OsIMAの発現は主にOsbHLH058/059によって制御され、IDEF1によって正に制御されるが、OsIRO3によって負に制御される。オーキシン、ブラシノステロイド、サイトカイニン、ジャスモン酸はOsIMAの発現を正に制御するが、アブシジン酸とOsHRZ1/2はOsIMAの発現を負に制御する。OsIMAペプチドのターンオーバーは、26Sプロテアソームを介したE3リガーゼOsHRZ1/2によって制御されている。コムギでは、TaIMAの発現はTaPIF(Phytochrome-Interacting Factor)様タンパク質によって転写レベルで制御されていることが報告されている。

図3.
MAペプチドは鉄欠乏下で鉄ホメオスタシス調節ネットワークに関与する。Strategy-I(A)とAtrategy-II(B)の両方において、IMAペプチドが鉄調節ネットワークで働く単純なモデル。
簡単に言うと、IMAペプチドは鉄欠乏時に根に顕著に蓄積した。一方、IVc bHLH TFsの全体的な発現は、シロイヌナズナ、イネともに鉄の状態にかかわらず変化しなかった。IMAペプチドもIVc bHLH TFsも、またシロイヌナズナではリン酸化されたURIも、シロイヌナズナではBTS、イネではHRZというユビキチンE3リガーゼによってターンオーバーされ、最終的には26Sプロテアソームを介して分解される。このタンパク質のターンオーバーは、IMAペプチドとE3リガーゼの競合的相互作用によって妨げられ、IVc bHLH TFは比較的高いレベルに保たれる。その結果、IVc bHLH TF(イネのオルソログOsbHLH58とOsbHLH59)は、シロイヌナズナではリン酸化されたURI/bHLH121(イネではリン酸化されていない)と相互作用し、下流のIb bHLH TF(イネのオルソログOsIRO2)やFIT(イネのオルソログOsbHLH156)の発現を誘発し、最終的に鉄の取り込みと移動の遺伝子の発現を誘導する。

図4.
IMAペプチドの発現上昇が植物にカドミウム抵抗性を与えるモデル。
IMAペプチドの高発現は、シロイヌナズナやイネでは強力なプロモーターを介した異所性発現によって、コムギでは炭素点(carbon dots)などの化学的刺激によって、Fe欠乏シグナル伝達が活性化され、その結果、Feの取り込みと移動に関する遺伝子の発現が増加する。Fe取り込み遺伝子の発現が高まると、生育培地にCdが存在するがFeが不足する場合に、Cd含量が蓄積され、Cd毒性が誘発され、最終的に植物の生育にダメージを与えることになる。対照的に、両戦略植物におけるFe取り込み遺伝子の高発現と、戦略II植物におけるフィトシデロフォアの高発現は、カドミウムストレスが存在しても、生育培地がFeで十分な場合、Fe含量を増加させる。高いFe含量は、やがてFe取り込みシステムを停止させ、カドミウムの吸収を減少させる。一方、高い鉄分は鉄隔離システムを活性化し、カドミウムの隔離を増加させる。総じて、カドミウム吸収の減少とカドミウム隔離の増加の組み合わせが、カドミウム抵抗性に寄与する。

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図2

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図3

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図4