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-植物鉄栄養研究会-


NPO法人
19生都営法特第463号
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ELONGATED HYPOCOTYL 5はBRUTUSを制御し、シロイヌナズナにおける鉄の獲得とホメオスタシスに影響を及ぼす

Date: 2023-04-01 (Sat)

以下は珍しくもインドの研究者のみによる論文である。今後インドも植物分子生物学を急追してくると思われる。
  
ELONGATED HYPOCOTYL 5はBRUTUSを制御し、シロイヌナズナにおける鉄の獲得とホメオスタシスに影響を及ぼす

ELONGATED HYPOCOTYL 5 regulates BRUTUS and affects Iron acquisition and homeostasis in Arabidopsis thaliana.

Samriti Mankotia1, Dhriti Singh1, Kumari Monika1, Muskan Kalra1, Himani Meena1, Varsha Meena2, Ram Kishor Yadav1, Ajay Kumar Pandey2, Santosh B. Satbhai1*
1Department of Biological Sciences, Indian Institute of Science Education and Research
(IISER), Mohali, SAS Nagar, Punjab 140406, India
2Department of Biotechnology, National Agri-Food Biotechnology Institute, Sector 81, Sahibzada Ajit Singh Nagar 140306, India
  
The Plant J First published: 15 March 2023

https://doi.org/10.1111/tpj.16191

(要旨)
鉄(Fe)は、動植物にとって必須の微量栄養素である。
鉄が不足すると、作物の収穫量が大幅に減少し、人間の栄養状態にも悪影響を及ぼす。
土壌中の鉄の生物学的利用能が限られているため、植物は鉄の取り込みと恒常性を調節するだけでなく、生存率を高めるために根系の構造に変化をもたらす様々な戦略を適応してきた。
このような根の成長反応の基盤となる分子機構を理解することは、植物の育種に重要な意味を持つ。
鉄の取り込みは、植物では塩基性ヘリックス-ループヘリックス(bHLH)転写因子のカスケードによって制御されている。
本研究では、塩基性ロイシンジッパー(bZIP)ファミリーの転写因子であるHY5(Elongated Hypocotyl 5)がシロイヌナズナの鉄欠乏シグナル伝達経路に重要な役割を果たすことを報告する。
hy5変異体は、最適な鉄欠乏応答を行うことができず、鉄制限下で根の成長不良を示した。
その結果、hy5変異体では、鉄の取り込み経路に関与する遺伝子(FIT-FERLIKE IRON DEFICIENCY-INDUCED TRANSCRIPTION FACTOR, FRO2-FERRIC REDUCTION OXIDASE 2, IRT1-IRON-REGULATED TRANSPORTER1)の誘導が減少していることがわかった。
さらに、クマリン生合成遺伝子の発現が、Fe欠乏下のhy5変異体において影響を受けていることも明らかになった。
また、HY5がBRUTUS(BTS)とPOPEYE(PYE)を負に制御していることも明らかになった。クロマチン免疫沈降法とqPCRにより、HY5がBTS、FRO2、PYEのプロモーターに直接結合していることがわかった。以上のことから、HY5がシロイヌナズナの鉄欠乏応答の制御に重要な役割を果たしていることが示された。

  
以下、8枚ある図のうち 最後の図8と図5のみを訳した。

図5.HY5がBTSプロモーターに直接結合する。
A. BTSの発現量。
B. WTおよびhy5変異体の苗を+Fe培地で6日間生育させ、+Feおよび-Fe(+300μM Fz)の両方に3日間移したときの相対発現をqRT-PCRで測定した。
データは3つの生物学的複製(n=2 technical replicates)の平均値である。
各生物学的複製は、〜90本の苗から抽出されたプールRNAからなる。
エラーバーは±SEMを表す。*Student's t testによる有意差(P≤0.05)。B. BTSのプロモーターの模式図。
C. 白いボックスはCG-Hybridを、灰色のボックスはG-boxを表す。
ボックス下の線はChIP qPCRで検出された配列を表す。C. HY5が結合したBTS制御領域Iの相対的な濃縮を示すChIP-qPCR。
ChIPアッセイは、+Fe培地で10日間生育したpHY5::HY5:YFP/hy5および35S:eGFP実生を用いて行った。エラーバーは±SEMを表す。



(図8). 鉄の獲得とホメオスタシスの維持におけるHY5の役割を説明するモデル。
HY5はBTSとPYEの発現を負に、FRO2の発現を正に直接制御する。
BTSの上流で作用し、その発現を負に制御する。BTSは、鉄欠乏条件下でbHLH IVc TFを分解し、bHLH Ib TFの発現を活性化することが知られている。
これらのIb bHLH TFsとFITは、直接的または間接的に、IRT1、FRO2(鉄の取り込みに関与する)およびFITのような鉄獲得に関与する多くの遺伝子の発現を正に制御する。
CYP82C4、S8H、BGLU42、F6'H1(クマリンの生合成に関与)。
HY5は、NAS4、FER1、FER3、FER4、VTL2、NEET(それぞれ鉄の輸送、貯蔵、同化に関与)を抑制することが知られているPYEの発現を負に制御する。
楕円形のボックスはタンパク質、長方形のボックスはmRNAを表す。
点線は、データとも一致する可能性のある制御機構を表している。

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図8

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図5