WINEP

-植物鉄栄養研究会-


NPO法人
19生都営法特第463号
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人体のミネラル栄養学は実に悩ましい

Date: 2022-12-14 (Wed)

人体栄養学は実に悩ましい

小生は60歳ごろからずーと毎年の健康診断で、血中ヘモグロビン値が日本人の平均値の下限よりも低く、検査結果報告書ではいつも L (低い)の結果をもらっている。一応植物の鉄栄養の専門家であるので、この自分自身の鉄欠乏症を解決するべく努力しているのだが、あまり効果が見られない。
 
これまでやってきたことはエーザイのフェロミア錠(中身はクエン酸鉄)を飲み続けることと、特に最近では豚や鳥のレバーを摂取していることである。

国産のフェロミア錠は20年ぐらい前から登場してきて、爆発的に売れているようである。飲むと必ず便が真っ黒になり、飲み続けると便が固まり、「新老人」には危険な便秘になりがちである。だから今では全く飲まなくなってしまった。

一方、世界の鉄栄養学会では鉄含有成分で一番腸管吸収効率がいいのは「ヘム鉄」と言われている。そこで、食品成分表を見て、ヘモグロビン含量の多い牛レバーや、豚レバーや、鶏レバーを時々調理したり、市販の調理済みのものを買ってきたりして、今ではほとんど毎日食べている。レバーはどうにもこうにも、歯ごたえ(テクスチャー)が悪く、味付けも濃くしないと、食べられないので、ほとんど義務感で毎日20gほどを食べている。これを口にすると食欲が減退するので、ほとんど牛乳と一緒にがぶ飲みしている。昔、若いころ公害問題と取り組んでいた時に牛・豚・鶏のレバーには飼料中の抗生物質などが解毒のためにたまっているので、臓器では一番汚いという印象を持った。この東京都の屠殺場での印象が強烈であったので、今でもレバーを食べると心理的に気分が悪くなる理由なのかもしれない。

と、いろいろ気を付けて頑張っているのだが、下記の[表1]を見てもらうと、昨今でも相変わらず小生の血液の鉄含量(血色素:ヘモグロビン:Hb)は平均値幅の下限値よりもいまだにかなり低い。ひどい時はこの値が9以下になったことがある。そういう時は朝起きると目の周りにクマ(隈)が出来ている。なぜだか赤血球数もヘマトクリット:Ht:血液中に占める赤血球の容積の割合)もいつもかなり低い。遺伝的に骨髄の赤血球の造血機能が低いのかもしれないと半ばあきらめに近い。近所の医者は胃腸のどこかに腫瘍ができていて、それが時々が破れて血液がだらだら漏れているんではないかというのだが、胃や腸での内視鏡検査では、観察できず、特別に便が黒くなることもない。

さて、今回わざわざ[表1]を開陳したのは、近所のかかりつけの医者に頼んで亜鉛(Zn)の血中濃度を測ってもらったからである。普通の人は健康診断ではこの元素Znをわざわざ測ってもらおうとはしまいと思う。

実は、この10年ばかり、日本土壌肥料学会の「語り部」を任じている渡辺和彦さんが学術会議や土壌肥料学会大会のシンポジウムで、「ヒトの亜鉛欠乏の話」を頻繁にされたり、あちこちの農業関係の雑誌にも掲載して紹介しておられる。その顕著な「亜鉛欠乏の皮膚症状」を初めて見せられた時に、もしや?と小生自身の足の脛の真皮のただれを疑ったことがある。それ以来時々市販の亜鉛錠剤を気やすめに飲んでいた。そうすると、心なしか、脛の皮膚がすべすべして、縦に割れて色黒だった足の爪が透明に赤みを帯びてきたようだった。ちょっとのことで摂取を怠ると、足の表皮ががさつき、真皮の下の毛細血管が赤く浮き出て来るのであった。それが数年経過したところで、この亜鉛製剤をわざわざ実費で薬局に買いに行くことがめんどくさくなったこともあった。

そこで、かかりつけの医者に、亜鉛の飲み薬を健康保険で処方していただけませんか?と頼んでみたら「一応亜鉛欠乏と診断されないと、薬を出せないので、血液検査をしてみませんか?」と誘われたのだ。そこで、血液を採取してもらって一か月後に再診に訪れると、なんと25項目にわたって血液検査をしてくれており、その結果を手渡された。

すでに述べた[表1]はその検査結果報告書の一部なのである。結果は小生の予想通り[表1]に示すように、小生の血清中の亜鉛含量が日本人の平均値幅の下限よりもかなり低かった!そこで亜鉛錠剤を健康保険でもらえることになった。

さらに付け加えると、小生の血中カルシウム(Ca)濃度も日本人の平均値幅の下限値をわずかに下回っていることが分かった。これは我が人生で全く予期していなかったことであった。カルシウムは神経伝達物質なので、これが低いと何かと痙攣を含めた神経異常が起こるのではないかと、素人なりに考えた。

最近小生は夜に3回起きる。3回目は腰から下のどこかの部位での強力な痙攣で目が覚めるのである。だから寝不足で起きて、だらだらと料理をしたり、ネットサーフィンをしたり、ストレッチ体操をして、また寝ることをしている。この過敏な筋肉の反応は、血中カルシウムがぎりぎりのところなので、下肢への血管のどこかが圧迫されて、筋肉への血液の輸送がおかしくなって筋肉がカルシウム欠乏で収縮するためではないだろうか? これまでカルシウムの供給が不足しているとはあまり考えてこなかった。なので、今後は小魚とか大好きな「うるめ」とか、もっとがぶがぶ牛乳を飲むとか、気を付けないといけないな、と思わされたことである。

そういえばこの10年間は歯の治療で散々だった。奥歯が縦に割れたり、前歯など6本の差し歯や入れ歯が全滅して総入れ歯になってしまったのだった。虫歯が原因ばかりでなく、歯のカルシウム供給が追い付かなくなっているのかもしれないとあらためて思い知らされた(カルシウム栄養に関しては歯医者は何も言ってくれたことがないのだが)。

かくのごとく、ミネラル栄養のバランスは植物ばかりでなく人体でも非常に重要である。ミネラル欠乏は、直ちに起こるのではなく、知らず知らずに起こるので(hidden loss)、認知症気味の「新老人」には実に実に要注意である。 (森 敏)


追記:先日、整形外科に、毎晩起こる下半身のけいれんについて相談に行った。その時、誰もが使う漢方薬である「芍薬甘草は使っていますか?」と聞かれたので、「10年前の足が攣り始めたころは飲んでいましたが、これを連用すると腎臓がやられるという噂を聞いてからやめました」と答えたら、腎臓のマーカーである「クレアチニン値が1.2なのでそんなに心配することはないのでは?」という答えだった。[最近友達には漢方薬である「ハチミジオウガン」も同じ効果があるよと言われています」と応答した。医者はざっと[図1]を眺めていて、小生の血中鉄栄養関連に関する値がすべからく低いのを見て、「これは腎臓が悪いのではないですか?腎臓は血液を造るのを促進するEPO(エリスロポエチン)」を造る臓器なので」と言われて、小生は「はっ!」とした。

これまで内科医には原因について何も言われてこなかったのだが、今回整形外科医に初めて指摘されて少し「そうだったのか!、いくらレバーを食べても血中ヘモグロビン値が上がらないのは造血機能が遺伝的に弱いからなんだ。多分腎臓でのEPO の生産が、遺伝的に低いんだろう、」と目が覚めた思いだった。腎臓透析でEPOを注入するまでのレベルではないだろうからと、特に医者は処方を示さなかった。

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[表1] 血液検査の結果(一部です)