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-植物鉄栄養研究会-


NPO法人
19生都営法特第463号
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バイオインフォマティクスを用いたイネの鉄過剰応答性新規シス調節エレメントの探索とプロモーター構造のシミュレーション

Date: 2022-12-11 (Sun)

これまでは鉄過剰症はBriatらのフェリチンを中心にした研究が鏑矢で展開されてきた。今回はMay Sann Aungさんらの、ミャンマー現地の鉄過剰イネの課題解決に根差した発想からの先駆的な研究である。バイオインフォーマテイックスの手法を用いて、新しい鉄過剰によって発現する関連遺伝子のシス配列を枚挙したものである。
 

バイオインフォマティクスを用いたイネの鉄過剰応答性新規シス調節エレメントの探索とプロモーター構造のシミュレーション

Exploration of iron excess-responsive novel cis-regulatory elements in rice and simulation of promoter structures by bioinformatics approach

筧裕介1、増田寛2、西澤直子3, 服部浩之2、May Sann Aung2

1NARO野菜花き研究所 〒305-8519 茨城県つくば市観音台3-1-1
2秋田県立大学生物生産学部 〒010-0195 秋田県秋田市下新城中野字街道端西241-438 (mayaung@akita-pu.ac.jp)
3石川県立大学資源生物科学研究所 〒921-8836 石川県野々市市末松1丁目308番地
 
2022.International Plant Nutrition Colloquium にて発表された。

  
(はじめに)
鉄過剰は、氾濫した酸性土壌、特に稲作において、作物生産の大きな制約要因となっている。鉄過剰下では、植物は根による鉄排除と様々な組織での鉄分離を制御する複雑な機構とネットワークを活性化する(Aung and Masuda 2020)。遺伝子発現の精密な制御には、シス制御エレメント(CRE)が重要である。イネでは、鉄過剰反応機構を制御する転写因子および CRE は、ほとんど不明である。我々は以前、様々なレベルの鉄過剰ストレスに応答する複数のイネ組織の包括的なマイクロアレイ解析を報告した(Aung et al.2018)。本研究では、このマイクロアレイデータを用いて、さらにバイオインフォマティクス的アプローチにより、イネの新規CREとプロモーター構造を探索した。
  
(方法)
まず、Fe過剰応答性転写レギュロンの遺伝子発現パターンを分類してFe過剰関連CREを予測するネットワーク解析を行い、4つの主要な発現クラスターを見出した。鉄貯蔵型、鉄キレーター型、鉄取り込み型、WRKY およびその他の共発現型の 4 つの主要な発現クラスターを見出した。次に、これら4つの遺伝子発現型クラスター内のCREを、我々が先に確立したmicroarray-associated motif analyzer(MAMA)と呼ばれる機械学習手法を用いて探索した。CREの探索には、転写開始点(TSS)に対して-500から+150のプロモーター領域を使用した。
 
(結果および考察)
包括的なバイオインフォマティクスアプローチにより、MAMA 解析により抽出された合計 560 種の CRE 候補と、イネの各組織における鉄過剰反応に直接関連する 42 種の重要な保存配列を同定した。GCWGCWGC、CGACACGC、Myb binding-like motif など、鉄過剰 CRE の候補となる新規 cis-element や鉄過剰反応における既知 CRE の新しい役割について探索した(表 1)。新規 CRE 候補は、鉄過剰応答性遺伝子の TSS 付近に顕著に存在し、遺伝子発現制御に関与していると考え られる(図 1.A,C,E)。これらの重要なモチーフのカバー率(配列の割合)を、特定の組織の鉄過剰誘導遺伝子の TSS に対して -500 から +150 の領域で示した(図 1.B,D,F)。これらの CRE は、イネの鉄のホメオスタシスを制御する重要な転写因子の結合配列である可能 性がある。MAMAを用いた候補CREと既知のPLACE CREの有無から、Boruta-XGBoostモデルで発現パターンを約83%という高い精度で説明できることが分かった。新規のMAMA CREと既知のPLACE CREの両方の配列を濃縮することで、高い精度で発現パターンを導くことができた。また、既知の CRE の鉄過剰反応における新たな役割を見出した。鉄過剰反応性遺伝子の中には、DCEp2 モチーフ、IDEF1-、Zinc Finger-、WRKY-、Myb-、AP2/ ERF-、MADS- box-、bZIP、bHLH- 結合配列含有モチーフが含まれることが判明した。また、新たに発見された CRE をもとに、鉄過剰反応性遺伝子を制御する分子モデルおよびプロモーター構造を構築した。

(結論)
今回の鉄過剰症関連 CRE および保存配列の発見は、鉄過剰症応答経路に関わる遺伝子や転写因子の 発見、イネの鉄過剰症応答機構の解明、および鉄過剰症に強い遺伝子型の作出へのプロモーター配列 の応用に向けた包括的な資源を提供するものである。


表1. の説明
遺伝子発現パターンモデルにおける重要モチーフトップ10


図1. の説明
鉄過剰症応答遺伝子上流における新規 CRE 候補の分布。
(A,C,E) は、鉄過剰組織における新規モチーフの相対頻度(分布)を、TSS から -3,000 〜 +2,000 bp の各 50 bp ウィンドウにおける平均頻度と比較したものである。青線は全遺伝子を示す。赤線は鉄過剰症制御遺伝子を示す。
(B,D,F)はTSSに対して-500bpから+150bpの領域におけるモチーフのカバー率、またはA,C,Eそれぞれのモチーフのカバー率を示す。MAMAで抽出したNovel CRE候補を、鉄過剰の最新葉(A,B,E,F)、鉄過剰の老葉(C,D)でシミュレートした。


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