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-植物鉄栄養研究会-


NPO法人
19生都営法特第463号
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鉄キレート活性物質プロリン-2′-デオキシムギネ酸は土壌の鉄利用率と植物の鉄状態を改善し、ピーナッツの収量を増加させる

Date: 2022-11-15 (Tue)

これはPDMAが中国の石灰質土壌条件下で、双子葉植物の鉄欠乏クロロシスの改善にも効果がある例である。


鉄キレート活性物質プロリン-2′-デオキシムギネ酸は土壌の鉄利用率と植物の鉄状態を改善し、ピーナッツの収量を増加させる

The active Fe chelator proline‐2′‐deoxymugineic acid enhances peanut yield by improving soil Fe availability and plant Fe status

王天斉1|王南斉1|呂喬芳1|朗山山1|王坤光1|牛雷1|鈴木基史2|左元美1
1中国農業大学資源環境科学学院、中国教育部植物・土壌相互作用重点実験室、中国農業大学、北京市、中国
2愛知製鋼株式会社、フロンティア研究開発本部、東海村、日本

Plant Cell Environ. 2022;1–12
First published: 07 October 2022 https://doi.org/10.1111/pce.14459
 
 
要旨
鉄(Fe)欠乏は石灰質土壌の作物収量を低下させる。そこで、天然の植物性キレート剤である2′-デオキシムギネ酸(DMA)をベースにした新規な鉄キレート剤、プロリン-2′-デオキシムギネ酸(PDMA)が鉄欠乏の問題を解決するために開発された。しかし,圃場条件下で栽培された双葉植物の鉄栄養および収量に関連するPDMAの効果およびメカニズムについては,さらなる探求が必要である。そこで、本研究では、石灰質土壌を用いたポット実験および圃場実験を行い、PDMAがピーナッツの鉄分栄養および収量に及ぼす影響について検討した。その結果、PDMA は根圏の不溶性鉄を溶解し、イエローストライプ様ファミリー遺伝子 AhYSL1 の発現を上昇させ、ピーナッツ植物の鉄栄養を改善することが明らかとなった。さらに、鉄欠乏によって引き起こされるクロロシスおよび生長阻害が有意に減少した。特に、圃場条件下では、PDMA の施用によりピーナッツの収量および穀粒の微量栄養素含有量が促進され た。この結果は、PDMA が難溶性鉄の溶解を促進し、根圏に鉄を豊富に供給することで、土壌-植物間の鉄 栄養を分子および生態レベルで統合的に改善し、収量を増加させることを示唆している。以上より、PDMAはピーナッツの鉄分補給と収量向上に有効であり、農業への応用が期待される。


以下図の説明
図5 プロリン-2′-デオキシムギネ酸(PDMA)は、圃場試験でのピーナッツ若葉の鉄欠乏により誘発されるクロロシスを軽減した。
(a)107日目の若葉の土壌植物分析発育値。
(b)107日目のピーナッツ若葉の活性鉄濃度。
(c) 107 日目における異なる処理下でのピーナッツの表現型。PDMA、PDMA-Fe、Fe-ethylenediamine-N,N,Nʹ,Nʹ-四酢酸錯体(EDTA-Fe)は、40μMのPDMA、PDMA-FeおよびEDTA-Feを300ml/ポットで、30, 52, 72, 93日にピーナッツの根に施用したことを示す。CKは、ピーナッツの根に同量の水を灌水したことを示す。FWは若葉の新鮮重量を示す。

図 7 プロリン-2′-デオキシムギネ酸(PDMA)のピーナッツの鉄分栄養と収量の改善に関する分子および生態学的レベルの適用モデル。
PDMA は根圏土壌の不溶性鉄を著しく活性化し、ピーナッツの根における AhYSL1 の発現を増加させ、その結果、植物体および穀粒への鉄の蓄積量を増加させた。鉄還元酵素の活性や AhIRT1 の発現など、ピーナッツの根の鉄欠乏に対する生理的・分子的反応は、ピーナッツの鉄栄養を高めることで減少する。また、PDMA は石灰質土壌においてピーナッツの収量および栄養価の制限を大幅に緩和し、新規な生物由来鉄肥 料として農業システムへの優れた応用の可能性を示した。

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原著論文のFig.5

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原著論文のFig.7