豚に小麦を基本食として給餌した場合の異なる品種の小麦内在性フィターゼ活性と、添加した微生物由来のフィターゼによる、リン酸の消化性とフィチン分解
ナタネや大豆の油粕などの家畜の飼料中に含まれている難分解性のイノシトールリン酸化合物を有効なリン酸源として消化吸収中に分解して無機リンとすることは、リンの有効利用として、畜産業界では大きな問題であり続けている。北欧ではすでに大腸菌に遺伝子組み換えされたフィターゼが飼料添加物として利用されていると聞いている。昔デンマークでの植物栄養学会(International Plant Nutrition Colloquium)で、この手法を開発実用化した2名の研究者が表彰されていた記憶がある。
以下に紹介する論文は、飼料として用いたコムギそのものの内在性フィターゼが豚の消化管内で有効に作用しているどうかを本格的に
検定したものである。訳していて何を今さらという感がしたのだが、畜産栄養学は、まだこのレベルなのかもしれない。
豚に小麦を基本食として給餌した場合の異なる品種の小麦内在性フィターゼ活性と、添加した微生物由来のフィターゼによる、リン酸の消化性とフィチン分解
Phosphorus digestibility and phytate degradation in pigs fed wheat-based diets with different intrinsic phytase activity and added microbial phytase
Nicolas Klein, Marius Papp, Pia Rosenfelder-Kuon, Annika Schroedter, Ulrike Avenhaus & Markus Rodehutscord
ARCHIVES OF ANIMAL NUTRITION https://doi.org/10.1080/1745039X.2021.1988814
( 要旨)
この研究の目的は豚に小麦ベースの食餌を与えた場合の、各種小麦由来のフィターゼのmyo-inositol 1,2,3,4,5,6-hexakis (dihydrogen phosphate) (InsP6)への分解性や, inositol phosphate (InsP) isomer 濃度 や リン酸(P)の消化性について、品種間の効果を研究することである。
微生物由来のフィターゼ投与のサプリメント効果も併せて研究した。3種類の小麦品種(W1- W3)由来のフィターゼ分析値が2760−3700FTU/kgをダイズとナタネを含み無機リンを含まない4種類の実験的食餌ダイズとナタネを含み無機リンを含まない食餌を計画した。
小麦の品種(W1-W3)で添加量400 g/kgの物のみが異なる結果であった。
W3+は市販の6-phytaseサプリを500 FTU/kgを含んでいる。
初期体重27kgの8頭の雌牛に回腸(pc)遠位部に簡易T字カニューレを装着し、完全無作為化縦列デザインで4つの飼料処理区に割り付けた。
実験は12日間を1期とし、4期に分けて行われた。各期間の最初の5日間は飼料適合のための時間であり、その後、糞便(4日間)、回腸消化物(2日間)、血液(最終日)の採取が行われた。DietW1-DietW3では、糞便前InsP6消失率は48%、糞便中P消化率は37%であり、小麦遺伝子型の有意な影響は認められなかった。糞便中の InsP6 消失量はすべての処理でほぼ完全であり、糞便中の P 消化率は小麦の遺伝子型による有意な影響を受けなかった(全体で 36%)。微生物フィターゼの添加により、回腸(pc )InsP6 分解は有意に増加し(79%へ)、pc および全経路 P 消化率は有意に増加した(それぞれ 53% および 52%へ)。
回腸消化物中のInsP6分解物の濃度は、Ins(1,2,3,4,6)P5とミオイノシトールがDietW3でDietW1およびDietW2より高かった以外は、小麦遺伝子型によって大きな影響を受けなかった。添加した微生物フィターゼは、回腸消化物中のInsP5異性体濃度を有意に低下させ、より低いInsP異性体およびミオイノシトールの濃度を増加させた。微生物フィターゼの添加によるpcアミノ酸消化率への有意な影響は認められなかったが、小麦の遺伝子型はCys、GlyおよびValのpc消化率に有意な影響を及ぼした。交配により達成された小麦の固有フィターゼ活性の上昇は、小麦ベースの飼料を給与した豚のInsP6分解およびP消化率には反映されないと結論付けられた。
まえがき (省略)
(実験方法)2.1.のみ訳す。
2.1. 小麦の説明と飼料の構成
本試験では、3 種類の小麦の遺伝子型(W1〜W3)を対象とした。2つの遺伝子型は、市販の小麦品種とHIGHPHYという小麦の突然変異体との交雑種(W1 とW2)でW3は市販の小麦品種であった。W1、W2、W3の固有フィターゼ活性 は3700、3400、2760FTU/kgで、総Pとフィチン酸P濃度は前者で 3.7, 4.0 および 3.8 g/kg DM(乾物)、後者で 1.9, 2.2 および 2.0 g/kg DM(乾物)であった。 また、CPや糖質画分など他の化学的な画分も同様に小麦の遺伝子型によって異なった。T
飼料に混合する前に、小麦をハンマーミルで挽いたあと、2mm メッシュで振るった。。異なる遺伝子型の小麦を40%含む4種類の飼料を混合した。(DietW1, DietW2, DietW3) 。4つ目の飼料はDietW3から構成されているが大腸菌由来の6-フィターゼ(Quantum® Blue, AB Vista, Marlborough, UK)を添加したものである。500 FTU/kg (DietW3+)補充した。
すべての飼料には21%の大豆粕と 主なフィチン酸源として12%の菜種粕、0.5%の二酸化チタンを使用した。
難消化性マーカー ミネラルPのサプリメントは飼料に含まれていない。分析されたDietW1-DietW3の内在性フィターゼ活性は、意図した違いを確認したが、純粋な小麦の結果から予想されるよりも低いものであった。DietW3+では、フィターゼによる活性の上昇が意図したとおりの結果となった。飼料中の分析された全Pの濃度、 InsP6-P およびカルシウム (Ca) は 5.6, 3.2, 6.5 g/kg DM であった。
(実験結果)省略
(結論)
小麦内在性フィターゼは豚のInsP6分解およびP消化率の向上に寄与するが、本研究で得られた小麦の交雑による内在性フィターゼ活性の変動は、豚の胃内で優勢なpHに対する小麦フィターゼの耐性およびタンパク質分解が不十分であるため、InsP6分解およびP消化率のデータには反映されていないものと思われる。小麦ベースの飼料に微生物フィターゼを添加することにより、pc InsP6 分解および P 消化率の顕著な増加が得られた。
図1. の説明。
無機リン(Pi)と全カルシウム(Ca)の血中濃度(左の縦軸)とミオイノシトールの血中濃度(右の縦軸)(n = 8)。エラーバーは平均の標準誤差として示した。a,b,共通の上付き文字がないカテゴリ内の列は有意に異なる (p ≤ 0.05).
図1