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-植物鉄栄養研究会-


NPO法人
19生都営法特第463号
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シアノバクテリアにおけるC-フェロトーシスは鉄依存性の制御された細胞死である

Date: 2021-12-18 (Sat)

以下の論文の図表はたくさんあるのだが、3点しか掲載できないので、それ以外は図の説明だけ掲載した。詳細は原著論文をお読みください。


シアノバクテリアにおけるC-フェロトーシスは鉄依存性の制御された細胞死である

C-ferroptosis is an iron-dependent form of regulated cell death in cyanobacteria
Anabella Aguilera, Federico Berdun, Carlos Bartoli, Charlotte Steelheart, Mat´ıas Alegre, Hülya Bayir, Yulia Y. Tyurina, Valerian E. Kagan, Graciela Salerno, Gabriela Pagnussat, and Mar´ıa Victoria Martin
  
J. Cell Biol. 2021 Vol. 221 No. 2 e201911005
 
フェロトーシス(ferroptosis)は、酸化的鉄依存性の制御された細胞死(reguratory cell death:RCD)であることが最近、動物、植物、寄生生物において述べられている。
本論文で我々は光合成原核生物であるSynechocystis sp. PCC 6803が熱ストレス(heat stress:HS)下で同様のことが起こっていることを報告する。
Synechocystis sp. PCC 6803細胞にHSを与えると典型的なフェロトーシス阻害剤であるCPX, vitamin E, Fer-1, liproxstatin-1, glutathione (GSH), アスコルビン酸(AsA)によって細胞死の過程が抑制される。
さらに真核生物で述べられているように、この過程では初めは抗酸化剤GSH や AsAが欠乏したり、脂質過酸化が起こることが特徴である。
これらの結果は真核生物のフェロトーシスで起こるとされているすべての特徴が光合成原核生物でも保存されていることを意味しており、フェロトーシスが古来の細胞死プログラムかもしれないことを示唆している。
  
  以下図1と図5と図6のみ示した。ただし図の説明文は図1〜図7まで全部訳しておいた。
 
図1。フェロトーシス阻害剤はSynechocystis sp. PCC 6803の50°CのHSによる細胞死を阻止する。
(a) BG11寒天培地上でDMSO (-), Fer-1,CPXで24時間前処理ののち50°Cで10分間HSをかけたあとのSynechocystis sp. PCC 6803の生存率。滴下試験。各区3連。
(b) DMSO, Fer-1, CPX でSynechocystis sp. PCC 6803 を 24 h前処理したHS誘導性細胞死
(c)細胞の生残性は、DMSO, Fer-1, CPX で 24 h前処理ののち 50°C か 77°C で 10 min処理で細胞死を誘発したのちFDAプローブを用いてフローサイトメトリーで評価した。
(d)DMSO, Lipro-1 (5 microM), vitamin E (500 microM) で 24 hで前処理したSynechocystis sp. PCC 6803のHS誘導性細胞死。浮遊細胞をSYTOX Greenで染色して光学または蛍光顕微鏡で計数した。SYTOX-陽性細胞は死細胞と解釈した。□のプロットは少なくとも3連によるものである。
   
図2。外から(Ca2+)を与えて細胞内Ca2+キレート化するとSynechocystis sp. PCC 6803の50°CでのHS死が抑えられる。(a)Cl2Ca, EGTA, BAPTA-AM, Cl2Ca+BAPTA-AM, Cl2Ca+EGTAでSynechocystis sp. PCC 6803の細胞を前処理しておき、50°C 4 hのHS処理誘導性細胞死を調べた。(b) EGTA+BAPTA-AMで前処理したのち50°C 4 h誘導性本処理したSynechocystis sp. PCC 6803細胞死を調べた。(c) Synechocystis sp. PCC 6803 細胞を EGTA前処理後 Fer-1またはCPXで後処理して、その後50°C 4 h本処理した細胞死。(d) Synechocystis sp. PCC 6803細胞をBAPTA-AMで処理後Fer-1 または CPXで処理したのち、50°C 4 h本処理後の細胞死。浮遊細胞をSYTOX Greenで染色し、光学または蛍光顕微鏡下で計測した。SYTOX-陽性細胞は死細胞と判定した。
   
図3。50°C で誘起される細胞死はSynechocystis sp. PCC 6803体内のGSH と AsAを欠乏させる。(a–d)Synechocystis sp. PCC6803 を50°C 4 h処理した後に、GSH とGSSG レベル(a と b)、還元型AsA含量 (b と c)を測定した。
ヒートショックをかける前にそれぞれのケースではDMSO (-), Fer-1, CPX で24 h前処理した。
(e) 50°C処理のHSで誘起される細胞死は、GSH (100 microM) または AsA (1 microM)の24時間前処理で阻止された。
(f) 50°C処理による細胞死はDTT (3 mM)による24時間前処理によって阻止される。細胞死の検定には浮遊細胞をSYTOX Greenで染色して、光化学顕微鏡と蛍光顕微鏡で計数測定した。SYTOX陽性細胞は死細胞と認定した。
   
図4。50°C処理はROSと脂質ROSの集積の引き金を引く。(a とb)細胞質と脂質ROSレベルは10-min 50°C処理後H2DCFDA and BODIPYを用いてフローサイトメトリーでそれぞれ1時間と3時間で評価する。予備培養はDMSO, Fer-1 (1 microM), か CPX (1 µM)で24時間行う。
500 mM H2O2処理による一部分をROS含量と酸化脂質生成物の対照区とした。(c)50°Cによる細胞死はD-PUFAs (D4)により阻害される。培養液はDMSO か 50 microM D4-linoleateにより24h前処理される。細胞死は50°C 4h の
HS処理により誘導される。浮遊細胞はSYTOX Greenで染色され光学顕微鏡と蛍光顕微鏡で検索して計測する。SYTOX-陽性細胞は死細胞と認定した。
   
図5.HSに応答して酸化型のPE, PG, SQDGが集積する。Synechocystis sp. PCC 6803をヒートショックとフェロトーシス阻害剤に曝した場合に生成する酸化型(ox)脂質の種類。
(a)ネガテイブモードでシアノバクテリアに見出された典型的なPEのマススペクトル。脂質の分離はnormal phase chromatographyで行った。
(b) Fer-1の処理の有無によるヒートショックに応答するPEと酸化型PE種の集積
(c)ネガテイブモードで獲得されたシアノバクテリアでの典型的なPGのマススペクトル。脂質の分離はnormal phase chromatographyで行った。
(d) Synechocystis 細胞のFer-1処理の有無によるHSに応答するPG と酸化型 PG。
(e)ネガテイブモードで獲得されたシアノバクテリアでのSQDGでのマススペクトル。分離はnormal phase chromatographyで行った。
(f) Fer-1処理の有無によるHSに応答するSynechocystisのSQDGsと酸化型SQDG。
  
図6。Synechocystis sp. PCC 6803の熱ストレスと酸化ストレスのTEM顕微鏡による形態観察。培養はDMSO (対照区), 50°C, or 77°C for 10 minか、H2O2で10 mM for 1 h処理した。
  
図7。Synechocystis sp. PCC 6803細胞がHSによって引き起こされたc-フェロトーシス細胞死の経過の模式図。
HSに伴い初期のGSH欠乏が起こり、脂質過酸化が起こり、それらは主としてチラコイドや細胞膜由来のPUFAsである。
通常使われるフェロトーシス阻害剤であるCPX, Lipro-1, vitamin E (vitE), Fer1などは毒性ROSの集積を抑制することによって、フェロトーシス細胞死を阻止する。
細胞内カルシウムはc−フェロトーシス細胞死経路へのメッセンジャーであり、BAPTA-AMはこのシグナルを抑制し、ヒートショックにより引き起こされたSynechocystis sp. PCC 6803の細胞死へ至る経路を阻害する。

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図1 フェロトーシスの生化学

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図6 電子顕微鏡図

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図7 フェロトーシスの模式図