WINEP

-植物鉄栄養研究会-


NPO法人
19生都営法特第463号
転載希望時は連絡先まで

イネの亜鉛吸収時のファイトシデロフォアの運用法について

Date: 2021-10-02 (Sat)

イネの亜鉛吸収時のファイトシデロフォアの運用法について

Unravelling the modus operandi of phytosiderophores during zinc uptake in rice: the importance of geochemical gradients and accurate stability constants

George H.R. Northover, Enrique Garcia-Espa and Dominik J. Weiss
  
Journal of Experimental Botany, Vol. 72, No. 5 pp. 1517-1526, 2021

   
(要旨)
微量栄養素欠乏は世界的な食糧生産の脅威になっている。

作物の生物的強化のための試みには微量栄養素の吸収過程の明確な理解が必要である。

イネの亜鉛欠乏は深刻な問題である。土壌から植物体への亜鉛の移行には、ファイトシデロフォアの一種であるデオキシムギネ酸(DMA)が関係している。

ファイトシデロフォアがイネ科(Poaceae)において鉄以外に広範な役割を果たしていることはよく知られている。しかし、イネのDMAが関与している亜鉛吸収経路の肝心のメカニズムの詳細は不明のままである。

とりわけ亜鉛がDMAから取り上げられる様式[フリーのZn(II)としてかZn(II)-DMA複合体としてか]の周辺やDMAと競合するほかの金属の役割などに関する疑問である。

亜鉛吸収時のDMAのやり方を理解するためには、根の細胞周辺の微細な環境におけるpH, DMAの濃度、イオン強度などがZn(II)-DMA複合体に与える影響を精密に記載する必要があることを提案する。

最後に、根の細胞周辺の微細環境にけるgeochemical 変化の重要性を明らかにし、speciationモデルに与える不正確な安定度定数の影響について論証する。
 


以下途中を省略していきなり結論を紹介する。

(結論)
(i)  我々は根の周りの微細な環境のgeochemical変化の影響こそが、イネの亜鉛の吸収効率とそのメカニズムにおけるDMAの重要性議論の主眼であるべきことを示した。
DMAの選択性は 溶液化学の正しい理解に基づくspeciationモデルを用いて評価されなければならないし研究されなければならない。

(ii)我々は根圏における金属-DMA複合体の安定な場の同定にとって、不正確な安定度定数の影響について提示した。真のリガンドサンプルが得られなくて、根圏において重要な多数の金属類やリガンド類を得られなくても、正確な安定度定数を決定するのに電子構造計算が使えることを提案する。
  
(iii)正確なspeciation モデル構築のためには、pHやリガンド[L]の次に、正確なイオン依存性安定度定数を決める必要がある。そのためには多様なイオン強度において決定されたK値(限界条件下での)が必要である;すなわち既製のmodelling codeを用いた単純な活動係数からのアプローチでは不十分である。
   
     
(表1の説明)
 
過去の3つの文献から拾い上げたDMAと様々な重金属との結合定数
   
       
(図1の説明)

(A)5つの酸根がプロトン化したボールとステッキによるDMA(C12H20N2O7)の中性の図解。
これらの基の酸解離定数(pKa)を標識している。赤、白、灰色、青で示すのは酸素、水素、炭素、窒素である;aはHiderら(2004)、bは乳酸(Silva et al., 2009)類似の分子であるアルコール性水素のpKaに基づいている。
(B)イネ科と植物プランクトン(Von Wiren et al., 1996; Aristilde et al., 2012)における ligand-assisted uptake研究 に基づく Zn(II)-DMA 複合体から亜鉛を取り込む3つの示唆的な戦略
(1)吸収以前に根の細胞表層から一定の距離を持ってDNAから積み下ろされる;
(2)解離していないZn(II)-DMA複合体が膜の推定上の細胞膜輸送体を経由して輸送される;
(3)根の細胞表層でZn(II)が一過性の3配位化合物によってDMAからはがされて、次にそのリガンドなしに(1)のように亜鉛が取り込まれる。
   
      
(図2の説明)
 
(A)と(B):
DMAに対するZn(II)の選択性をほかの金属との比較(A)とDMA濃度(B)に対する選択比の変化という関数(log S, M/M); S=[M-DMA]/[Zn(II)-DMA])で示したものである。
A,B両方のシステムで[M]=1 μM and [Zn(II)]=1 μM. (A)では[DMA]=10 μM、(B)pH5.5でMurakami et al. (1989)の数値(表1に示す)を用いてモデル計算を行った。
 
(C):
Zn(II)-DMA濃度の比を2種類の同一のシステムでおこなわれて表1に公表されている安定度定数x=Murakami et al. (1989); Fe(II)=10.1, Zn(II)=12.7; y=Sugiura et al. (1981); Fe(II)=8.1, Zn(II)=10.7で計算を行った。
 
[Zn(II)-DMA]x/y <1 ではMurakami et al. (1989) システムでのZn(II)-DMA濃度はSugiura et al. (1981)システムでの濃度よりも低かった。これに対して[Zn(II)-DMA]x/y >1 ではMurakami et al. (1989)システムでのZn(II)-DMA濃度は、Sugiura et al. (1981)システムでのZn(II)-DMA濃度よりも高かった。
灰色の領域は淡水栽培での根圏のpH領域を示している。

photo
表1

photo
図1

photo
図2