WINEP

-植物鉄栄養研究会-


NPO法人
19生都営法特第463号
転載希望時は連絡先まで

IRONMANは環境pH と協奏して鉄欠乏応答を調律する

Date: 2021-07-22 (Thu)

以下の論文は双子葉植物の鉄吸収を支配するIRONMANペプチドの作用メカニズムについて解析したものである。
   
  
IRONMANは環境pH と協奏して鉄欠乏応答を調律する
  
IRONMAN Tunes Responses to Iron Deficiency in Concert with Environmental pH Chandan Kumar Gautama, Huei-Hsuan Tsai and Wolfgang Schmidt
  
(この論文は未審査でネットにアップされているものであるので、引用には注意されたい)
bioRxiv preprint doi: https://doi.org/10.1101/2021.02.16.431461; this version posted February 17, 2021.
 
 
(要旨)
 
鉄(Fe)は必須元素であり、天然の植物共同体の構成分をカバーしており、農業生態系では鉄の利用効率が極端に低い特にアルカリpH土壌での作物収量の制限因子である。
  
そのような条件下では鉄を十分量抽出するために、Arabidopsis thalianaを含むある種の植物は不溶性鉄を還元力やキレート力によって可溶化するフェニルプロパノイドを分泌する。
 
ここでは我々はIRONMANペプチドであるIMA1とIMA2の異所的発現が石灰質土壌で生育を向上させることを示す。カテコール系のクマリンであるfraxetin (7,8-dihydroxy-6-methoxycoumarin)の生合成や分泌の誘導は、MYB72 とSCOPOLETIN 8-HYDROXYLASE (S8H)の遺伝子発現増大によって起こされ、これは環境pHの上昇に対して厳密に依存して応答している例である。(*異所的発現とは:遺伝子が本来発現しないか発現が低い発育ステージ・組織・環境下で発現される、または発現が高くなること。:育種学辞典)
 
これに対してサイトクローム P450 ファミリータンパクである CYP82C4は、fraxetin を 鉄とはさらに不安定な化合物であるsideretinに水酸化する酵素であるが、その遺伝子の転写は強く抑制される。
   
トランジェントに形質転換したルシフェラーゼのレポーターアッセイでは、IMA1/IMA2ペプチドは翻訳されCYP82C4 と MYB72の、転写活性補助因子としてその発現を調整する。
   
結論としてIMAペプチド類は、酸性とより高いPH下での鉄吸収過程を制御する。遺伝子発現を上流制御したり、その時々のpHシグナルと協奏したりして土壌条件を克服するべく植物を適応させる。
  
この制御パターンは鉄が効率的に土壌から吸収されるべく石灰質土壌への耐性を付与する。
IMAペプチドの発現を制御することによって石灰質土壌に適応した植物を創生する新しい道が開ける。
  
  
  
下図の説明
 
嫌石灰植物(左)と好石灰植物(右)の鉄欠乏応答のpH依存性誘導モデル
  
植物の低鉄状態によって誘導されるIMA遺伝子発現:pHに対応した明確な二組の応答誘導の引き金が引かれる。
   
環境PHはsideretin か fraxetinの生合成を指令する。すなわち低PHではCYP82C4の遺伝子発現を維持し、pHが高くなるとCYP82C4の転写を抑制する(緑色と赤の矢頭で示している)。
 
酸性条件下ではプロトンの浸出、sideretin分泌、鉄キレートの還元、IRT1経由のFe2+の吸収というプロセスでIMAsはFe(OH)3からの鉄の獲得をサポートする。
 
好石灰植物系統はMYB72によってプラスに制御されている。
  
中性またはアルカリ領域ではIMAsはfraxetin を生合成してPDR9を介して分泌し、鉄は還元とキレート化によって可動化される。
   
BGLUsの中でもß-glucosidase BGLU42が優先的にクマリン類の脱グリコシル化を行い分泌を用意にする。
   
Fraxetinそのもの根からの再吸収あるいはfraxetin-Fe 複合体の根からの再吸収のトランスポーターは未同定である。以上の2種類の分枝はたがいに排除しているものではなく、その時の支配的なpHによって優先順位が決まる。

photo