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-植物鉄栄養研究会-


NPO法人
19生都営法特第463号
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イネはどのようにして鉄過剰に対応しているのか? 生理的・分子的メカニズム

Date: 2020-10-09 (Fri)

イネはどのようにして鉄過剰に対応しているのか? 生理的・分子的メカニズム

How Does Rice Defend Against Excess Iron?: Physiological and
Molecular Mechanisms

May Sann Aung* and Hiroshi Masuda

Department of Biological Production, Faculty of Bioresource Sciences, Akita Prefectural University(秋田県立大学), Akita, Japan

frontiers in plant science
MINI REVIEW
published: 07 August 2020
doi: 10.3389/fpls.2020.01102


鉄はすべての生物の必須元素であるが過剰にあると毒となる。

鉄過剰は低pHの湛水水田条件下ではしばしば起こる。二価鉄イオン濃度が急激に上昇し、細胞のホメオスタシスを破壊し成長と収量を損なう。

しかし植物の鉄過剰応答や耐性の分子機構についてはいまだによく特徴づけられていない。

マイクロアレイとゲノムワイド分析によればイネは、鉄過剰条件下でホメオスタシスを制御するために4種類の防御システムを備えていることがわかっている。

防御1。鉄過剰耐性は鉄吸収や移行に関するIRT1, OsYSL2, OsTOM1, OsYSL15, OsNRAMP1, OsNAS1, OsNAS2, OsNAAT1, OsDMAS1, OsIRO2等の遺伝子発現を抑制して鉄排除を行う機構を備えている。
イネでは鉄結合性ユビキチンライゲースHRZは鉄過剰条件下での鉄吸収系遺伝子群を抑制するキー制御因子である。
   
防御2。イネは鉄を地上部に移行せずむしろ根系に保持する。
  
防御3。イネは地上部で鉄を区画化隔離する。防御2と防御3では、液胞膜鉄トランスポーターOsVIT2、鉄貯蔵タンパクであるフェリチン、ニコチアナミン合成酵素OsNAS3は過剰の鉄を隔離したり無毒化を仲介する。

防御4。イネは過剰鉄に応答して体内で生成されるROSを解毒する。防御4にはOsWRKY転写因子、S-nitrosoglutathione-reductase、p450-ファミリータンパク、 OsNAC4, 5, 6が関わっている。
   
これらの知見は、低pH、鉄過剰土壌での増収に結び付く耐性品種の育種に貢献するだろう。






図1。湛水下の低pH土壌における鉄の還元とイネに対する鉄過剰効果
   
湛水還元条件下では三価鉄はより可溶性の2価鉄イオンに還元される。
過剰の2価鉄イオンは根に吸収されて導管から葉に移行し各種
組織への過剰集積を来す。
植物組織への過剰集積はフェントン反応によるROSの過剰発生を起こさせる
これらは細胞構造、膜、DNA,タンパクに障害を与え生理学的プロセスを破損する。
鉄過剰は葉にブロンジング症状を引き起こし、イネの収量損失や完璧な作物損失を来す。
   
Fe3+, ごく少量溶けている三価鉄イオン; Fe2+, 可溶性2価鉄イオン; ROS,活性酸素種. 赤い矢印: イネの鉄吸収と移行; 黄色い矢印:地上部から地下部へ酸素が移行してFe2+ が Fe3+に酸化されて、根の表面へ鉄プラークが形成される.
     
図2。イネの鉄過剰に対抗する為の4つの防御機構の仮説的モデル。
防御1:根における鉄の排除による過剰耐性
防御2:鉄を根にとどめて地上部に移行させないことによる、鉄過剰耐性
防御3:地上部における鉄の隔離による鉄過剰耐性
防御4:植物におけるROSの解毒による鉄過剰耐性
    
DC, Discrimination center; NA, nicotinamine. 赤字, 強く誘導された遺伝子; 青字, 強く抑制された遺伝子.

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図1

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図2