WINEP

-植物鉄栄養研究会-


NPO法人
19生都営法特第463号
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IRO3に関する2つの論文について

Date: 2020-09-26 (Sat)

以下にほとんど同時に発表された、二つの論文を紹介する。この二つの論文はイネのIRO3遺伝子の鉄欠乏のネガテイブレギュレーターとしての機能を特定したものである。両者の投稿歴を見ると、
先に紹介する東大グループの論文は
SSPN誌に、2020年5月24日に投稿、6月14日に受理、7月23日にon lineで発行している。
一方、後者の南京農業大学の論文は
plants誌に、2020年8月1日投稿、8月21日受理、8月25日に発行されている。
後者が前者の受理の約1か月前に発行された論文を見ていないということはありえないだろう。両者の論文の構成は酷似している。にもかかわらず、後者の論文に前者の論文が引用されていないことは極めて研究者倫理に悖る(もとる)ことだと思われる。plantsのチイーフレフェリーがaddendumで断りを入れさせるべきだと思う。
  
  
以下が先行する東京大学学派の論文です。
 
bHLHタンパクOsIRO3は鉄欠乏条件下でのイネ(Oryza sativa L.) のサバイバルと鉄(Fe)ホメオスタシスに重要である

The bHLH protein OsIRO3 is critical for plant survival and iron (Fe) homeostasis in rice (Oryza sativa L.) under Fe-deficient conditions
Fan Wanga*, Reiko N. Itaia*, Tomoko Nozoyea,b, Takanori Kobayashic, Naoko K. Nishizawac and Hiromi Nakanishi a
aDepartment of Global Agricultural Sciences, Graduate School of Agricultural and Life Sciences, the University of Tokyo, Tokyo, Japan; bCenter for Liberal Arts, Meiji Gakuin University, Tokyo, Japan; cResearch Institute for Bioresources and Biotechnology, Ishikawa Prefectural University, Ishikawa, Japan

ARTICLE HISTORY
Received 24 March 2020 Accepted 14 June 2020 Publishied on line :23 Jul 2020.

(要旨)
鉄は生物にとってあらゆる生命反応に関係しているので必須の元素である。

鉄欠乏は植物の成長にとって主要な制限条項であり作物の収量を低下させ、栄養の質の低下をもたらす。

植物での鉄の吸収と移行は、様々な転写因子群(TFs)や特にbasic helix-loop-helix (bHLH)ファミリーのメンバー
などの、多くの遺伝子の協調的発現が必要である。

OsIRO3は最初に過剰発現イネを根拠に根の鉄ホメオスタシス遺伝子として報告された。

しかし、イネの成長と鉄欠乏下での根と地上部の間での鉄ホメオスタシスの制御作用に関してはまだ理解が貧弱であった。

そこで我々はCRISPR/Cas9 システムを用いてosiro3 ノックアウト変異株を作成した。

osiro3 ノックアウト変異株の葉は鉄欠乏処理下で異常な成長と発達を示した。

osiro3ノックアウト変異株は若い葉に障害が出て、極度の鉄欠乏処理で枯死した。

そのうえ、鉄欠乏条件下では、osiro3ノックアウト変異株では、地上部での活性酸素の集積、鉄とマンガンの濃度がすべて向上した。

鉄欠乏条件下では、osiro3 ノックアウト変に株の地上部において、定量的RT-PCRの結果、ROS誘導性の超感受性細胞死に関わるOsNAC4遺伝子や鉄の貯蔵や集積に関わるOsFerritins遺伝子が有意に活性化されていた。

osiro3ノックアウト変異株では、DNAマイクロアレイによると、鉄欠乏応答性遺伝子が根で誘導されており、地上部で抑制されており、さらに鉄欠乏条件下では鉄十分または鉄過剰関連遺伝子は地上部で誘導されていた。

酵母でのtwo-hybrid分析ではOsIRO3とそのホモログタンパクであるOsbHLH062は正の相互作用をし、この遺伝子は鉄欠乏で転写量が増加した。

OsIRO3 遺伝子は鉄欠乏条件下でのイネのサバイバルに必須であると同時に、鉄の過剰集積を阻止するために地上部から根へのシグナル伝達に本質的な役割を果たしている。


以下が後発の南京農業大学学派の論文です。
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イネにおいてOsIRO3は鉄欠乏応答に必須の役割を果たし、鉄ホメオスタシスを制御する

OsIRO3 Plays an Essential Role in Iron Deficiency Responses and Regulates Iron Homeostasis in Rice
Wujian Wang 1 , Jun Ye 1, Yanran Ma 1, Ting Wang 1, Huixia Shou 2 and Luqing Zheng 1,*
1 College of Life Sciences, Nanjing Agricultural University, Nanjing 210095, China;
2 State Key Laboratory of Plant Physiology and Biochemistry, College of Life Sciences, Zhejiang University,
Hangzhou 310058, China; huixia@zju.edu.cn
* Correspondence: zhenglq@njau.edu.cn; Tel.: +86-25-8439-5423

Received: 1 August 2020; Accepted: 21 August 2020; Published: 25 August 2020
要旨
鉄(Fe)ホメオスタシスは植物の成長と発達にとって本質的なものであり、それは一群の転写因子によって厳密に制御されている。鉄によって制御されている転写因子(OsIRO3)は、以前にイネの鉄欠乏応答のネガテイブレギュレーターとして同定されていた。しかしOsIRO3の鉄欠乏応答の分子メカニズムは不明であった。

ここで我々はOsIRO3がイネの鉄欠乏に対する応答や、鉄ホメオスタシスの維持に必須あることを報告する。OsIRO3は栄養成長期の根、葉、根基部節位、特に葉身で比較的高く発現している。

OsIRO3をノックアウトすると鉄欠乏に過剰に反応し、若い葉が重篤なネクロシスを起こし、根の発達が正常でなくなる。

このiro3変異株は鉄欠乏条件下で地上部に高レベルの鉄を集積し、OsNAS3の発現をアップレギュレートし、根へのニコチアナミン(NA)集積を促進した。

さらに分析するとOsIRO3はOsNAS3のプロモーターのE-boxと直接結合することが分かった。

さらに、鉄十分条件下でのiro3変異体では典型的な鉄関連遺伝子発現が優位にアップレギュレートされていた。
だから、OsIRO3は鉄欠乏に応答するキーの役割を担い、直接OsNAS3の発現を負に制御して
ニコチアナミンレベルを制御していると結論される。