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-植物鉄栄養研究会-


NPO法人
19生都営法特第463号
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鉄の次世代への手渡し:鉄は種子へいかにしてどれくらい?

Date: 2020-08-13 (Thu)

鉄の次世代への手渡し:鉄は種子へいかにしてどれくらい?

Handing off iron to the next generation: how does
it get into seeds and what for?
Stéphane Mari, Christophe Bailly and Sébastien Thomine

Biochemical Journal (2020) 477 259–274
https://doi.org/10.1042/BCJ20190188


一年生の種にとって新世代への継承を確保するために、母世代植物は、栄養成長期に蓄積してきた栄養素の大部分を種子を通じて次世代に移行させる。
鉄(Fe)は幼植物種苗の成長維持のためのエネルギーや酸化還元力を供給するために大量に必要である。しかしフリーの鉄は活性酸素を生成するので非常に毒性が強い。
  
だから、酸化ストレスのダメージを回避して長期間生き残るためには鉄はキレート分子と強く結合していなければならない。

しかし一方では、条件が良い時は種子中の鉄貯蔵庫が直ちに再流動化して、苗が環境から(独立栄養的に)鉄を吸収できるようになる前に、光合成の活性化に向かうことを達成しなければならない。これは苗の活力のために決定的であると思われる。

一方、種子は人体健康に必須の重要な日々の鉄栄養源である。種子中の鉄の貯蔵のメカニズムを理解することは、鉄欠乏に対抗ために鉄含有量とその利用率を向上させるために重要課題である。

種子の寿命、発芽率および幼植物の健常さなども、鉄が貯蔵されている化学形態によって影響されると思われる重要な形質である。

この総説では、成長している種子への鉄の集積、長期間の貯蔵、発芽時の再流動化などについて、最近の知見をまとめた。

我々はこの知見が種子中鉄の生物的強化に如何に役立つかについて強調し、鉄貯蔵が種子の品質や発芽率に如何に影響するかについて論じた。
  
   
以下、図の説明。
   
図1.Arabidopsis thalianaの鉄吸収と種子への再移動
吸収と根から地上部への移行に関わる主要なタンパクの名前は青色で示している。
種子への再移転流に関わる主要なタンパクは茶色で示している。
パーセンテージは植物のライフサイクルの最終段階での、根を除いた、鉄の平均的な分布を意味している。
    
図2.母体から胚組織への鉄の移行
(A)鉄は発達している種子の母体に輸送されるが外皮(被包)と胚の間の細胞外空間を通過しなければならない。
(B)鉄は胚からこの母体を分けている細胞外空間でリンゴ酸やクエン酸と結合する。
Arabidopsisとエンドウでは胚の中に吸収される前にアスコルビン酸によって鉄は還元される。
細胞外空間への鉄、リンゴ酸、アスコルビン酸の分泌に関わる輸送体や胚の中に鉄を吸収する輸送体は未同定である。
    
図3.登熟穀物種子中の鉄の分布(小麦の例)
鉄が豊富な組織と細胞は青色、細胞質の不連絡組織(母体と胚乳の間;胚乳と胚盤の間)はピンク色で強調している。サイズ、形状、縦溝の発達、胚心突起などは単子葉植物系統間により多様である。

   
図4.Arabidopsis thaliana成熟胚での鉄分布
(A)胚全体の鉄のPerls DAB染色は前形成層での鉄(茶色)濃度が高いことを示している。
(B)子葉での胚の切片のTEM顕微鏡像はprovasculature (pv)、protoendodermis細胞(en)、subepidermal cells (se)を示す。
フィチン酸顆粒は小さな黒点として液胞(矢印)にみられる。
proto-endodermal (en) や subepidermal cells (se)内でのプロテインボデイーのEDX分析:鉄はproto-endodermal cells (en)の貯蔵液胞内に濃縮されている。
  

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図1

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図2

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