総説:新しく解明された水稲へのセシウムの吸収機構
以下は、2011年の福島第一原発事故に触発されて、突然変異原を用いて、「放射性セシウム吸収を抑制したイネ」を世界で最初に開発することに成功した、秋田県立大グループによる総説です。
土壌の放射性セシウムの動態とセシウムの高等植物への吸収メカニズム:新しく解明された水稲へのセシウムの吸収機構
The Dynamics of Radio-Cesium in Soils and Mechanism of Cesium Uptake Into Higher Plants: Newly Elucidated Mechanism of Cesium Uptake Into Rice Plants
Hiroki Rai and Miku Kawabata
Department of Biological Production, Faculty of Bioresource Sciences, Akita Prefectural University, Akita, Japan
Frontiers in Plant Science | www.frontiersin.org 1 May 2020 | Volume 11 | Article 528
まえがき
核による事故によって土壌が放射性セシウムで汚染してしまったことは、大きな社会的関心事である。この総説では、放射性セシウム(Cs)の土壌での動態、土壌からのセシウムとカリウム(K)の吸収関係、これまでに従来から提案されてきたCsの吸収に関して紹介した。
最後に、新しく解明された水稲によるCs吸収のメカニズムを従来のモデルと比較して紹介した。
(要旨)
Csは微量元素である。通常条件下ではあまり起こりえない高濃度で吸収されれば有害である。
しかし、核兵器実験や放射性セシウム原子力発電事故では、放射性セシウムは植物によって吸収されて、食物連鎖の中に入っていく。
セシウムはイライト粘土鉱物のfrayed edgeと強く結合するので、雨水による浸透によってはほとんど動かない。
しかし植物は強い無機イオン吸収力を持っているので、セシウムの生態系へ再拡散し、食品の放射能汚染を引き起こす。
セシウムイオンは植物によってカリウムイオン吸収と同じメカニズムで吸収されると想定されている。
しかし、これら二つの元素は土壌から植物へ、植物体内で、同じような動態を示すものではない。
これまで提案されてきた高等植物への吸収モデルは、Csイオンは高親和性Kトランスポーター(HAK)とvoltage-insensitive cation (VIC)チャネルによるとされてきた。
イネのHAKトランンスポーター遺伝子をノックアウトした株(oshak1)を用いた実験では、特に低Cs条件下では、HAKトランポーター(OsHAK1)がCsの主要な吸収経路であることが分かった。この際Kの吸収速度はoshak1 と野生株の間では大きな差はなかった。
根の表層ではOsHAK1以外のカリウムの輸送システムはCs吸収には、わずかか全く貢献しなかった。OsAKT1がCs吸収を仲介しないことはほぼ確かである。
通常の土壌条件下では根へのCs吸収の80–90%がOsHAK1によるものであり、残りはVIC チャネルによるものである。
HAK と VICのCs吸収に対する貢献度が異なっても、以上の結果は従来のモデルと一致するものである。
図1.水稲におけるカリウム吸収機構
図2.水稲におけるセシウム吸収機構
図3.濃度依存的なカリウムとセシウムの吸収曲線