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-植物鉄栄養研究会-


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アラビドプシスでは、転写因子bHLH121はbHLH105(別名ILR3)とその近隣のホモログと、相互作用して鉄のホメオスタシスを制御する

Date: 2020-03-12 (Thu)

アラビドプシスでは、転写因子bHLH121はbHLH105(別名ILR3)とその近隣のホモログと、相互作用して鉄のホメオスタシスを制御する
The Transcription Factor bHLH121 Interacts with bHLH105
(ILR3) and Its Closest Homologs to Regulate Iron Homeostasis
in Arabidopsis
Fei Gao, Kevin Robe, Mathilde Bettembourg, Nathalia Navarro, Valérie Rofidal, Véronique Santoni, Frédéric Gaymard, Florence Vignols, Hannetz Roschzttardtz, Esther Izquierdo, and Christian Dubosa

The Plant Cell, Vol. 32: 508–524, February 2020, www.plantcell.org ã 2020 ASPB.

鉄(Fe)は植物の成長と発達にとって必須の微量元素である。
鉄ホメオスタシス維持に関するいかなる欠損も植物生産物の生産性や生産物の質を変化させることになる。

アラビドプシス(Arabidopsis thaliana)では転写因子ILR3が鉄ホメオスタシスにおける中心的役割を担っている。
本研究では、ILR3と相互作用する転写因子としてbHLH121を同定した。
更に相互作用の研究を進めるとbHLH121はILR3に最も身近な3つのホモログ(例えばbasic-helix-loop-helix 34 [bHLH34], bHLH104, and bHLH115)とも相互作用することが分かった。

bhlh121の loss-of-function 変異株は鉄ホメオスタシスにおいて重篤な欠損を示した。しかしそれは外部からの鉄の投与で回復した。

bHLH121はbHLH38, bHLH39, bHLH100, bHLH101, POPEYE, BRUTUS, BRUTUS LIKE1, IRONMAN1、IRONMAN2などの
鉄制御ネットワークに関係する遺伝子群に対する直接的な転写活性化因子として働く。

さらに、bHLH121は鉄欠乏応答性転写因子の遺伝子であるFITの発現を間接的なメカニズムで活性化するのに必須である。
bHLH121遺伝子は全身で発現しているが鉄の利用性の影響は受けていない。
逆に、鉄の利用性は根におけるbHLH121タンパクの細胞内局在に影響を当てている。
つまりこれらのデータからいえることはbHLH121タンパクはFITの上流でILR3やその他の近接したホモログと協奏しながら作用している鉄ホメオスタシスの制御因子である




下図の説明。 bHLH121は鉄ホメオスタシスネットワークの上流で作用している。

アラビドプシスでは二種類の内部連結している制御モジュールで鉄ホメオスタシスをコントロールしている:
モジュール1(赤)は、FITに依存したものであり、モジュール2(オレンジ)では、ILR3 とその系統授上最近接したホモログ(i.e.,bHLH34,bHLH104, bHLH115)に依存したものである。
本研究の結果からいえることは、bHLH121は鉄ホメオスタシスのネットワークの上流に作用する。そのやり方はbHLH121はILR3やそれと近接したホモログタンパク類とヘテロダイマーを形成し、両者のモジュールに属する数種の制御タンパクの遺伝子(緑色)の発現を活性化するというものである。

ここで提案しているモデルではbHLH121依存性複合体は
間接的に鉄欠乏応答性FITの発現を活性化する。
一旦誘導がかかるとFITタンパクはbHLH38,bHLH39, bHLH100, bHLH101などとヘテロダイマーを形成し鉄吸収や移行(青色)などの構造的遺伝子の発現を誘導する。
bHLH121依存性複合体はMYB10やMYB72などの発現の直接的な活性化因子である(この二つの転写因子は鉄の利用性が制限されたときのクマリンの生合成や分泌を制御しているし、それ自身の発現が間接的にFITによって制御されている)。

そのほかのbHLH121依存性複合体の直接的なターゲットはBTSLである。
BTSL1はRING E3 ubiquitin ligaseであり、これはFITをターゲットにしており鉄欠乏応答性をネガテイブ(負)に制御しており、FITをプロテアゾームによる分解に導く。

一方、bHLH121依存性複合体は鉄欠乏に応答してbHLH38, bHLH39, bHLH100, bHLH101等の遺伝子発現を直接活性化する。
bHLH121依存性複合体による鉄欠乏応答性IMA1 と IMA2の直接的誘導はbHLH38と bHLH39の発現誘導を更に強化するのかもしれない。

bHLH121によるIMA3発現の制御の可能性に関しては未解明である。

PYE (bHLH47) と BTS (E3 ubiquitin ligase)はこれら2つの
遺伝子発現もまた鉄欠乏によって誘導されるという直接的な追加のターゲットである。

一旦誘導されるとPYEはILR3とヘテロダイマーを作り鉄の輸送と貯蔵に関係する遺伝子群(青色)と、おそらくはPYEそれ自身の発現をネガテイブフィードバックの制御ループの中で抑制する。

それに反して、BTSはbHLH115 と ILR3を得意的にターゲットとし、26S proteasome経由で分解される。このようにして鉄吸収を微妙に調整して植物にとって好ましくない鉄過剰を避けるのである。

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