WINEP

-植物鉄栄養研究会-


NPO法人
19生都営法特第463号
転載希望時は連絡先まで

ヨーロッパアカマツ(Pinus Sylvestris)の根の細胞のヒストンH3とアルファ・チューブリンのアセチル化に及ぼすヒドロキザメート系シデロフォアの化学構造の効果

Date: 2020-02-12 (Wed)

以下の論文は、鉄をかんでいないシデロフォアが植物の細胞骨格αチューブリンのアセチル化を促進して、細胞骨格の高分子化を阻害する、したがって、細胞の形態異常を起こしうるという初の論文と思われる。




ヨーロッパアカマツ(Pinus Sylvestris)の根の細胞のヒストンH3とアルファ・チューブリンのアセチル化に及ぼすヒドロキザメート系シデロフォアの化学構造の効果

The Effect of Hydroxamic Siderophores Structure on
Acetylation of Histone H3 and Alpha Tubulin in
Pinus sylvestris Root Cells
Joanna Mucha , Tomasz A. Pawłowski , Ewelina A. Klupczy ´ nska, Marzenna Guzicka and Marcin Zadworny

Published: 3 December 2019
Int. J. Mol. Sci. 2019, 20, 6099; doi:10.3390/ijms20236099 www.mdpi.com/journal/ijms


(要旨)
タンパクのアセチル化は遺伝子発現ばかりでなく他の過程にも影響を及ぼし、それは金属の利用性に依存している可能性がある。
しかし、鉄キレート化合物(シデロフォア類)が植物の根のアセチル化過程に影響を与えているかどうかはほとんど未知である。
本研究では、異なる化学構造のシデロフォアでPinus sylvestrisの根を処理して、根の細胞をウエスタンブロッテイングと共焦点顕微鏡を使って、histone H3とアルファチューブリンのアセチル化の程度を調べた。

感染性カビや菌根菌によって生産される代謝産物の効果についても調べたが、ヒストンアセチル化の効果は認められなかった。

これに対して、感染性カビの代謝産物はマイクロチューブのアセチル化のレベルを低下させた。しかし、鉄をキレートしていないferrioxamine (つまり、desferrioxamine:DFO)はマイクロチューブのアセチル化のレベルをあげた。

この後者の現象はFe・ferrioxamine化合物では起こらなかった。

感染菌の代謝産物は細胞骨格の組織化に重要な改変を誘起する。
シデロフォアもチューブリン骨格に変化をもたらすが、この変化は鉄に依存している。

シデロフォアのマイクロチューブ(細胞骨格)ネットワークへの効果は鉄の存在に依存していた。

鉄が噛んでいないシデロフォアや感染性カビの代謝産物に根を曝したときには、ほどけたままの(高分子化していない)細胞骨格の根の細胞がより多く観察された。

一方では、菌根菌の代謝産物や鉄を噛ませたシデロフォアでは、根の細胞の細胞骨格ネットワークはわずかにしか変化しなかった。

総括すると、これらのデータからいえることは、感染性カビの代謝産物はシデロフォア作用を再現し、鉄制限条件は細胞構造と生理の変化を促進し得る。


一例として下図を転載する。

(下図の説明)

構造が異なるシデロフォア (ferrioxamine-FO, ferricrocin-FCR と triacetylfusarinine C-TAFC)の鉄結合体と非結合体(desferrioxamine- DFO,desferricrocin- DES-FCR とdestriacetylfusarinine- DES-T)がPisum sylvestrisの根細胞のチューブリンのアセチル化への影響。

(a)αチューブリンに対するアセチル化したαチューブリンの比。**はstudent-test での1%有意。

photo