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-植物鉄栄養研究会-


NPO法人
19生都営法特第463号
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植物由来のクマリン類はアラビドプシスの根の微生物叢(マイクロバイオーム)の構成成分をかたちづくる

Date: 2020-01-28 (Tue)

植物由来のクマリン類はアラビドプシスの根の微生物叢(マイクロバイオーム)の構成成分をかたちづくる
Plant-derived coumarins shape the composition of an
Arabidopsis synthetic root microbiome
Mathias J. E. E. E. Vogesa, Yang Baic, Paul Schulze-Lefertc, and Elizabeth S. Sattelya

12558–12565 | PNAS | June 18, 2019 | vol. 116 | no. 25 www.pnas.org/cgi/doi/10.1073/pnas.1820691116

 
(要旨)
根のマイクレオバイオーム(微生物叢)の成分に貢献する因子や植物のフィットネス(適応度)に関係する因子などはよくわかっていない。
 
最近根の微生物叢構成分を決定づけている土壌接種の主要な貢献内容が明らかになって来た。
しかし、植物は種や環境条件によって異なる、広域にわたるおびただしいユニークな二次代謝産物を分泌しており、周辺の生物相と相互作用をし得る。
 
ここでは、どんなバクテリアが根圏に生息するのかを記載しつつそれに対する特徴的な代謝産物の役割について探索した。
 
我々はArabidopsis thalianaの根から分離したバクテリアの生息数を減少させた合成群叢(SynCom)を用いて、分子量の小さいphytoalexins, flavonoids, coumarinsなどが分泌されていない培地への群叢転移(community shift)を検出した。
 
f6′h1変異株系統でクマリンが生合成されない場合は根の微生物群叢で転移が特に鉄欠乏条件下で起こることを見出した。(この場合は Pseudomonas sp. Root329が占有種となった。訳者注)

鉄を可溶化するクマリンの役割は恐らくA. thalianaの根のバクテリア群叢を、相対的に豊富なPseudomonas属の増殖を酸化還元のメカニズムで阻害することによって、模様替えすることであることを明らかにした。
   
この研究は 植物由来の低分子ら、が微生物共同体の構成分を調停するという特異的な機構を解明する体系的なアプローチの手法を打ち立てたものである。
   
我々の研究は、ある条件によって分泌された代謝産物の役割について詳説するものであり、鉄が制限されているアルカリ土壌で意図的に作物の生育量を向上させる第3の耕作可能土壌として根圏を効果的に工作できる道を示唆している。
    
  
  
一例として鉄欠乏条件下での菌叢の違いについて下図を紹介する。
<下図の説明>
根が分泌するクマリン類は根の微生物相(microbial community profile)を転換(shift)させる。
(A)アラビドプシスの根の酸化型クマリン生合成と分泌に関する遺伝子を含む、鉄ホメオスタシス関連遺伝子のレパートリーの模式図。Sideretin, fraxetin, esculetinは主要なクマリン類と考えられており、中性pH周辺の鉄欠乏条件の野生株の根から分泌される。
(B)鉄欠乏条件下での野生株と比較したそれぞれの植物品種(genotype) のZ scoresのScatter plot。
ここでZスコアとは変異株の根で読まれた菌株のカウント数とそれと同調して鉄欠乏条件下で生育させた野生株の対応する菌株の平均値を差し引いたものを野生種の菌数の偏差値(SD)で正規化したものである(Z = (xi_mutant − μi_WT)/σi_WT)。
菌株は系統樹によって識別した。黒い点線はP = 0.01に対応するZスコアで、平均値は黒いバーで示してある。
星印はそのgenotypeで有意であることを示す。
Z scoresはN数から独立した16S rRNA counts(30,000希釈で計測)から計算した。
それぞれのデータ数(n)は、それぞれ16種子を播種した2つのサンプル槽から収穫した根組織の数である。

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