WINEP

-植物鉄栄養研究会-


NPO法人
19生都営法特第463号
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多様な土壌環境変化に応答するイネの金属元素類の可塑的輸送システム

Date: 2020-01-11 (Sat)

多様な土壌環境変化に応答するイネの金属元素類の可塑的輸送システム

Plastic transport systems of rice for mineral elements in response to diverse soil environmental changes

Peitong Wang , Naoki Yamaji , Komaki Inoue, Keiich Mochida and Jian Feng Ma

New Phytologist (2019) doi: 10.1111/nph.16335

(要旨)

気候変動は乾燥と洪水の頻度を増大させて世界的な穀物生産性と食料の安全供給に脅威を与えている。

イネ(Oryza sativa)は植物が利用できる元素の濃度や化学形態の異なる淡水条件と畑条件のいずれでも生育するというユニークさを有している。

この異なる水環境でイネが格闘している機構を包括的に理解するために我々は、淡水条件下と畑条件下でのイネの根、節位、葉mのionomics と transcriptomicsの解析を行った。

金属元素の輸送作用に関係するタンパクをコードする遺伝子に的を絞って分析した結果、両者ともに最適な地上部の成長を示す場合、各元素レベルが類似でも、窒素、鉄、 銅、 亜鉛では異なる輸送体を使っていた。
  
例えば、淡水条件下ではイネの根は窒素の輸送体としてアンモニア輸送体(OsAMT1/2) と硝酸輸送体(OsNPF2.4, OsNRT1.1A とOsNRT2.3)を用いていたが、畑条件下では異なる二つの輸送体(OsNRT1.1B とOsNRT1.5A)を利用していた。
 
本研究はイネが異なる水環境下(淡水と畑条件)で応答する異なる多様な金属輸送システムを有していることを証明するものである。
  

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以下少し解説すると、
例えば下図において、鉄イオンの吸収に関しては、水田
湛水条件では、還元が進むために二価鉄イオンが豊富なので、二価鉄イオンの吸収のトランスポーターであるIRT2が発現して、二価鉄イオンを直接吸収しているが、畑状態では酸化的条件なので、鉄が不溶態となっているために、この難溶性の酸化鉄を3価鉄イオンとして可溶化して吸収するために、ムギネ酸排出のトランスラスポーター(TOM1)がまず働き、排出されたムギネ酸が3価鉄イオンをキレートして吸収するためのトランスポーター(YSL)が根の細胞膜表層で働いている、と同時に2価鉄イオンも多少存在するので、IRT1も作動している、 という具合である。(森敏)

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湛水条件下と畑条件下で異なるイネの金属輸送システム