WINEP

-植物鉄栄養研究会-


NPO法人
19生都営法特第463号
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転載:水田土壌における鉄還元細菌と鉄酸化細菌の役割についての発表

Date: 2019-11-28 (Thu)

過日、日本土壌肥料学会で発表された、水田土壌における、鉄還元細菌と鉄酸化細菌についての講演要旨を3編紹介する。
水田土壌における,鉄の酸化還元の動態は、日本の水田土壌学におけるもっとも旧くて、かつ新しいテーマである。それが近年遺伝子レベルの手法で解明されつつある。
   
   
ポスター発表
P3-1-21 水田土壌を集積培地として用いた鉄還元細菌の単離
○河野圭丞1・Zhenxing Xu2・増田曜子2・白鳥 豊3・妹尾啓史2・伊藤英臣4
(1北大農院 2東大院農 3新潟農総研 4産総研生物プロセス)
近年の環境核酸ベースの解析から、世界的に水田土壌にはAnaeromyxobacter属の鉄還元細菌が優占していること、また鉄還元のみならず亜酸化窒素還元や窒素固定といった無機窒素還元をも駆動する重要な微生物基盤であることが示唆されている。しかしながら、Anaeromyxobacterの単離培養例は限られており、培養株の種記載や系統学的な整理がほとんど進められていない。これまでAnaeromyxobacterは有機酸と金属または有機塩素化合物を電子供与体・受容体とする最少培地を用いた集積培養を経て単離培養された。
本研究では視点を変え、「水田土壌に優占しているのであれば水田土壌で集積できるはず」という作業仮説のもと、水田土壌そのものを集積培地として用いてAnaeromyxobacterの単離培養を試みた。
風乾した水田土壌と蒸留水をバイアル瓶に入れ、オートクレーブした。この土壌スラリーに生土試料を添加し、青灰色になるまで嫌気培養し、2週間おきに継代した。有機酸を添加したR2A寒天培地(R2A-F)に継代培養したスラリーを塗布して嫌気培養した。
AnaeromyxobacterはR2A-F培地上で赤褐色のコロニーを形成することが知られている。生土から検出されなかったものの、継代培養した土壌スラリーから多数の赤褐色のコロニーが検出された。
得られた赤褐色のコロニーの16S rRNA遺伝子配列を解析したところ、Anaeromyxobacter 6株(3新種含む)を見出した。
同時にGeobacter属の鉄還元細菌も700株得られたが、驚くべきことに記載種との16S rRNA遺伝子配列の相同性が98.0%以上を示すものはなく、全ての株が新種であることが示唆された。
さらに予期しなかったことに、これまで単離培養例が1例しかないGeothrix属の鉄還元細菌が70株(4新種含む)得られた。
 
ポスター発表   
P3-2-1 水田土壌における鉄還元菌窒素固定:鉄添加による窒素固定活性の増強
○高野 諒1・石田敬典1・増田曜子1・伊藤英臣2・白鳥 豊3・妹尾啓史1,4
(1 東大院農 2産総研北海道センター 3新潟農総研 4東大微生物連携機構)
水田土壌において、微生物による窒素固定は窒素肥沃度を自律的に維持するための重要な役割を持つ。水田土壌の窒素固定微生物としてシアノバクテリア門細菌がこれまで着目されてきた。しかし近年、我々はメタトランスクリプトーム解析により、Deltaproteobacteria綱に属し鉄還元菌として知られるAnaeromyxobacter属およびGeobacter属細菌が、水田土壌において窒素固定を駆動している主要な微生物である可能性を見出した。また、水田土壌からの分離菌株を用いて、これらの鉄還元菌はFe3+を電子受容体、酢酸を電子供与体として用いて生育し窒素固定を行うことを確認した。
土壌に鉄を添加して水田土壌の鉄還元細菌の窒素固定活性を高めることができれば、土壌の窒素肥沃度を向上させ、水稲増収に結びつくことが期待される。この着想の検証を目的として、室内系土壌ミクロコズム試験ならびに圃場試験を行った。
新潟農総研圃場から採取した水田土壌に様々な形態の鉄化合物および稲わらを添加して湛水状態で保温静置し、土壌の窒素固定活性をアセチレン還元活性(ARA)法によって調べた。
その結果、ferrihydrite+稲わら添加区、およびFe2O3+稲わら添加区において無添加区よりも高いARAが確認された。また、高いARAを示した土壌からRNA を抽出し定量PCRを行ったところ、鉄還元菌由来のnif転写産物が検出された。
土壌の遊離酸化鉄量の異なる二か所の水田に純鉄粉を施用し、数日間放置して酸化させたのちに湛水して水稲を栽培した。いずれの水田についても、鉄添加区土壌は無添加区土壌よりも高いARAを示した。遊離酸化鉄量の低い圃場で、鉄添加区において無添加区よりも約10 %高い水稲収量が得られた。
土壌への鉄添加により鉄還元細菌窒素固定活性を増強でき、水稲増収に結びつく可能性が示された。
 
 

以下は逆に鉄酸化細菌の研究です。
    
口頭発表
3-1-22 AWD節水水田土壌中の微好気性鉄酸化細菌群集の動態
○渡邉健史1・片柳薫子2,3,4・Ruth Agbisit3・Lizzida Llorca3・宝川和2,3,4・浅川 晋1
(1名古屋大院生命農 2JIRCAS 3IRRI 4農環研)
 Alternate Wetting and Drying (AWD)灌漑技術は、土壌水分がある条件まで低下したときに灌水する節水灌漑技術の一つであり、土壌中の物質代謝に常時湛水条件とは異なる影響を及ぼす。近年、非生物的反応が主体とされてきた水田土壌の鉄酸化反応に、微好気性鉄酸化細菌も関与することが明らかになってきたが、AWD節水管理は鉄の酸化還元サイクルにも影響を及ぼす。本研究では、国際稲研究所で試験されたAWD節水水田土壌中の微好気性鉄酸化細菌の群集構造を解析し、節水に伴う鉄の酸化還元状態の変化と群集動態の関係を明らかにした。
 常時湛水区と深さ15 cmの土壌水分張力が-20kPaまで低下した際に灌水するAWD区を対象とした。2008年雨季、2009年乾季および雨季の水稲栽培期間に、AWD区の田面水深が0 cmまで低下したときに深さ3〜13 cmの土
壌を計4回ずつ採取した。DNAを抽出後、Gallionellaceae科の微好気性鉄酸化細菌16S rRNA遺伝子を対象としたqPCR、PCR-DGGEおよびクローンライブラリー解析を行った。また2009年は、土壌中の活性2価鉄含量を経時的
に測定した。
 微好気性鉄酸化細菌16S rRNA遺伝子コピー数は、乾土1 gあたり105〜107コピーの間を変動し、2008年雨季を除くと、水稲栽培後半のAWD区で高い傾向が見られた。活性2価鉄含量の変化は16S rRNA遺伝子コピー数の変化とは対称的であり、両者の間には有意な負の相関関係が見られた。PCR-DGGE解析により処理区間で群集構造が異なることが明らかになったが、塩基配列を解読した結果、主要な構成種は共通していた。以上より、AWD節水
水田では、土壌がより酸化的な状態に変化する際に微好気性鉄酸化細菌による鉄酸化反応が活発になると推察された。