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-植物鉄栄養研究会-


NPO法人
19生都営法特第463号
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植物のNOS研究はフェイクであった!

Date: 2019-11-12 (Tue)

野菜に含まれる硝酸塩は毒か薬か? 還元的NO合成経路の研究小史

という題目で山崎秀雄教授(琉球大学理学部海洋自然科学科)が簡潔に植物のNO生合成研究の現状を解説してくれている。(化学と生物57巻11月号2019年)

文章の一部引用すると
::::.植物(野菜)も,哺乳類と同様にNOSが感染応答に関与している可能性が,1998年のNature誌およびPNAS 誌に報告され,NOに対する植物研究者の関心が一気に高まった.当時,各種モデル生物のゲノム解読プロジェクトが進行しており,植物には哺乳類型NOSホモログは存在しないことが程なくして判明した.その後も,植物NOSの探索競争は激化し,Science誌,Cell誌,PNAS 誌などの有力誌に植物固有のNOS(植物iNOSおよびAtNOS1)があることが報告された.最有力候補の一つと見られていた植物iNOS論文にデータ捏造疑惑が生じ,著者による出版論文の全文撤回というスキャンダルにまで至ってしまった(5).植物iNOSショックが冷めやらない2006年,英国Royal Agricultural Collegeで開催されたHarden/EMBO合同国際会議“The biological diversity of nitric oxide metabolism and signaling” においてさらなる衝撃が走った.AtNOS1を発見したCrawfordが,「AtNOS1にはNO合成酵素活性が見られない」と耳を疑うような内容の口頭発表を行った.植物iNOSと同様に,AtNOS1にも研究不正の疑惑が浮上してしまったのである.最近,Science誌およびNature誌で,生命科学分野における研究不正の現状が報告された.研究不正の社会に与える影響は大きく,時には科学研究自体の進歩を妨げてしまう.残念ながら,植物NO研究は,その例として歴史に刻まれることになってしまった。:::::
     
ということで、どうやらアルギニン起源のNO合成能は植物には存在しないようである。
 
   
以下私事であるが、
小生(森敏)は1970−80年代に、有機物特に各種のアミノ酸を唯一の窒素源とする、イネとオオムギの水耕栽培と土耕栽培を行っていた。その中で明らかになったことの一つに、アルギニンが低温寡照ストレス下での生育が無機体チッソよりも顕著に生育と収量が良かったことであった。その理由として、
アルギニンは一分子に4個の窒素を有していることで根からのチッソ吸収にエネルギー効率が良いだろうということと、
吸収後のチッソ代謝がプールサイズのおおきいグルタミン酸プールに流れ込み、その後スムーズに他のアミノ酸に代謝されていくこと、として説明した。
Mori S et al. primary assimilation process of triply (15N, 14C and 3H)labeled arginine in the roots of arginine-fed barley. Soil Science and Plant Nutrition. 27,29-43(1981)
Mori S et al. Alleviation effect of arginine in artificially reduced grain yield of ammonium ion or nitrate -fed rice(Oryza sativa)
. Soil Science and Plant Nutrition 31, 55-68(1985)
   
当時、アルギニンを基質としてのNOSの研究はまだ全く未知であった。その後、上記山崎教授によってに紹介されているように、動物や微生物でNOSの発見がされ、植物でもNOSがあるという研究が多数出てきていたが、小生にはこれら植物関連の論文がどうも胡散臭く信用できなかったのである。
もし植物にNOSがあると考えた場合には、アルギニンを唯一の窒素源にした場合、各種ストレス条件下での生育が良い理由に加えられると思ってずっと注目してきた。だが、残念ながら、植物NOS研究はすべてがフェイクであったようだ。
 

   
(下図1 の説明)

二つのNO合成経路 (化学と生物57巻11月号2019年p666)

野菜に含まれる硝酸塩は,口腔内および消化管の常在細菌によって亜硝酸塩に変換される.その後,さまざまな酵素・非酵素反応によってNOに還元され,多様な生理作用を示す.酸化的経路と還元的経路の大きな違いは,関与する酵素の多様性と酸素(O2)の要求性である.虚血状態(低酸素・無酸素状態)でも還元経路ではNOを合成し血管拡張を行うことができる.

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図1 二つのNO合成経路