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-植物鉄栄養研究会-


NPO法人
19生都営法特第463号
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脳の銅とダウン症の関係についての論文

Date: 2019-11-01 (Fri)

ダウン症モデルTs1Cjeマウスでは脳への銅集積は酸化ストレスを上昇させて、不用心な行動を引き起こす
Copper accumulation in the brain causes the elevation of oxidative stress and less anxious behavior in Ts1Cje mice, a model of Down syndrome
KeiichiIshiharaEriKawashitaRyoheiShimizuKazukiNagasawaHiroyukiYasuiHaruhikoSagoKazuhiroYamakawaSatoshiAkiba
Free Radical Biology and Medicine
Volume 134, April 2019, Pages 248-259

(要旨)
ダウン症(Down synderome:DS)の病因として酸化ストレス(OS)が向上していることが関係している、ということは広く認知されている。しかし、DSにおいてOSが向上する根拠の機構はよく理解されていない。
生物無機金属とりわけ銅と鉄はOSの役割を果たす。そこで我々はDSと脳内生物金属に焦点を会わせた。
本研究ではDSの遺伝子モデルとして広く用いられているTs1Cjeマウスの脳の生物金属を含む元素のプロファイル分析を行った。
Ts1Cjeマウスの脳をICP-MS分析(inductively coupled plasma-mass spectrometry)によるmetallomic/elementomic分析を行ったところ、同腹子に比べて、海馬と大脳皮質で(線条体ではそうではなかったが)高レベルの銅が明らかになった。
細胞内に銅を取り込む輸送体CTR1の発現はTs1Cjeマウスの脳室の上衣細胞では低下していた。
このことはCTR1を媒介とする、脳脊髄液へ銅を排出する作用を有している上衣細胞への、銅の取り込みが低下していることを意味している。
Ts1Cjeマウスの脳の銅集積が病因であるという意義を証明するために、我々は低濃度銅の食餌(low copper content:LoCD)を与えて、脂質過酸化の向上、hyperphosphorylated tauの集積、ある種の異常行動に及ぼす影響を調べた。
LoCD投与による脳の銅含量の低下は、Ts1Cjeマウスの脳内の向上した脂質過酸化と、tauのリン酸化を元に戻し、不安行動を軽減させた。しかし、活動過多や空間学習欠損は回復しなかった。
これらの知見は「銅の集積を軽減させる」というDSに対する新しい治療戦略に光を当てることになるかもしれない。

  
  

以下はこの研究の新聞と雑誌による紹介です。
  

脳の銅、ダウン症と関係か…東京薬科大など研究
2019/02/03 読売新聞

  
人のダウン症とよく似た遺伝子変異を持つマウスは脳に銅がたまりやすいとする研究成果を、京都薬科大などの研究チームが発表した。このマウスは生後に銅の摂取量を減らすことで、一部の症状を抑える効果が表れたという。成果が米科学誌に掲載された。
 ダウン症の人は、本来2本ある21番染色体が、受精卵の段階で3本になる突然変異が起きている。また、脳の神経細胞の数が少なくなることが知られているが、なぜそうなるかは不明だった。
 チームは、染色体の変異や症状が人のダウン症と似ているマウスの脳を調べた。その結果、大脳や小脳、海馬などに、健康なマウスの約1・5倍の銅がたまっていることを発見した。この変異を持つマウスは警戒心が弱く、外敵に襲われやすい広い場所に自分から出てしまう傾向がある。そこで餌に含まれる銅の量を10分の1以下に減らして育てたところ、脳にたまる銅の量が、健康なマウスとほぼ同じレベルになった。
 また健康なマウスと同様に広い場所を避け、壁際を選んで移動する慎重な行動を取るようになったという。銅は魚介類などに豊富に含まれ、人の体内にも常に一定量、存在する。
 人のダウン症と銅の蓄積の関係はわかっていないが、チームの石原慶一・京都薬科大講師は「過剰な銅の蓄積によって脳内で活性酸素ができ、神経を傷つける一因になっている可能性がある」と話している。




ダウン症の酸化ストレス亢進に銅蓄積が関与

2019年01月25日 (金) 薬事日報メールニュース

◆京都薬科大学の石原慶一講師、秋葉聡教授らのグループは、世界で初めてダウン症における脳での酸化ストレス亢進に銅蓄積が関与していることを見出した。この成果は、銅の量的変動がダウン症の病態に関与している可能性を示唆するものだ
◆石原氏らは金属イオンを含む多くの元素量を網羅的に解析できるメタロミクス解析技術を用い、ダウン症モデルマウス脳内の銅の過剰蓄積を発見。さらに、銅低減食を与えることで、脳での酸化ストレス亢進や一部の異常行動抑制も確認している
◆ダウン症は約700人に1人の確率で発生する最も頻度の高い染色体異常として知られており、通常2本の21番染色体が3本(トリソミー)となることで精神発達遅滞や記憶学習障害といった様々な症状を呈する
◆ダウン症は染色体の突然変異で発症することは分かっているが、根本的な治療方法はない。石原氏らの研究が、今後のダウン症の病態メカニズム解明・治療法開発に大きく貢献し、アンメットメディカルニーズの薬剤誕生につながることを期待したい。