WINEP

-植物鉄栄養研究会-


NPO法人
19生都営法特第463号
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鉄含量強化イネ作出のための候補遺伝子に関するメタアナリシス

Date: 2019-10-10 (Thu)

以下の論文は、巧妙なコンピューター分析により、鉄と亜鉛が関係する遺伝子の染色体上の位置情報を絞り込んだものである。
 
 
イネ種子中のホットスポット染色体領域と同定された、鉄と亜鉛に関係するQTLsと、鉄含量強化イネ作出のための候補遺伝子に関する高次解析

Meta-analysis of grain iron and zinc associated QTLs identified hotspot chromosomal regions and positional candidate genes for breeding biofortified rice
Qasim Razaa, Awais Riaz, Muhammad Sabar, Rana Muhammad Atif, Khurram Bashir

Plant Science Volume 288, November 2019, 110214


(要約)

主要穀物の必須微量元素を強化することは潜在的飢餓を克服するための持続的な道である.

種子中の微量要素含量にリンクするQTL(quantitative trait loci:量的形質の位置情報)は様々な異なるmapping (遺伝地図作成)研究によって報告されている。

多様な遺伝子地図作成を通して共通のQTLsを同定することは、目的とした形質の候補遺伝子の分析とマーカー(標識)遺伝子をとっかかりとする選抜法(marker assisted selection)にとって有用である。

本研究では、種子中の鉄と亜鉛関連のQTLsの最新の高次解析を行い、12本のイネ染色体に48個のメターQTLs(MQTLs)を同定した。

同定した遺伝子領域の95%信頼限界での長さは、それらに対応する基のQTLsの長さの平均値よりも狭かった。

MQTL領域内またはその付近に物理的近いところに位置する9308個の遺伝子/転写産物を回収し、663個の重複しない鉄と亜鉛の候補遺伝子CGs(candidate genes)を選抜し詳細に分析した。

我々が見出したMQTL分析の中には、いくつかの機能が特定されている鉄と亜鉛のホメオスタシスに関連する

OsATM3, OsDMAS1, OsFRO2, OsNAS1-3, OsVIT2, OsYSL16, OsZIP3 ,OsZIP7などの遺伝子も含まれていた。

大まかに言えば60%以上がGO(*Gene ontology terms)で言う亜鉛と鉄と結合する遺伝子であり、酸化還元過程、炭素化合物代謝、転写制御、膜輸送、酸化ストレス応答、細胞の酸化還元ホメオスタシス、たんぱく質分解、などなどである。

イネのコンピューター上での(In-silico)転転写物解析によると、260個のCGsが鉄と亜鉛ストレスに対する応答が制御されていた。

さらに我々は鉄と亜鉛の両者のストレス条件下で異なる転写を示す37個の遺伝子を同定したが、これらのほとんどが従来詳細に分析されていないものであった。

われわれの研究結果は、この研究によって同定された染色体上の高次解析位置(MQTLs)が種子の鉄と亜鉛の濃度に関するホットスポットであることを強く示唆しており、ここは近い将来機能解明に強力に力を入れて研究すべき重要性を有している。

*wikipediaによれば、遺伝子オントロジー(いでんしオントロジー、英: gene ontology、GO)とは、生物学的概念を記述するための、共通の語彙を策定しようとするプロジェクトである。
1990年代後半から、生物学における実験手法の革新(DNAシーケンサーやDNAマイクロアレイなど)や、バイオインフォマティクス的手法の発達により、様々な種の遺伝子関連情報がデータベース化されている。これらに蓄積された情報を有効に活用するためには、統一された語彙を用いて、機能情報などを記述する必要がある。統一された語彙を用いることで、異なった機関によって作成されたデータベース、更に異なった生物種のデータベース間で、データの結合や、横断比較を行うことが可能になる。データベースは無料で公開されている。