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-植物鉄栄養研究会-


NPO法人
19生都営法特第463号
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ファイトシデロフォアであるニコチアナミン対デオキシムギネ酸の比がイネの金属ホメオスタシスをコントロールしている

Date: 2019-09-18 (Wed)

この論文はイネの金属代謝に関する重要論文である。ここで引用されている論文の約3分の1が東大・石川県立大の森・西澤グループの研究成果である。とりわけ、これまで、我々が発見して、われわれ以外にあまり遺伝子導入に使われてこなかったNAAT-b遺伝子を、イネに遺伝子導入して、高DMAイネ系統を作出してくれていることは、非常にうれしいことである。(森敏 記)

  
ファイトシデロフォアであるニコチアナミン対デオキシムギネ酸の比がイネの鉄ホメオスタシスをコントロールしている

The ratio of phytosiderophores nicotianamine to deoxymugenic acid controls metal homeostasis in rice
Raviraj Banakar・Ana Alvarez Fernandez · Changfu Zhu · Javier Abadia · Teresa Capell · Paul Christou1

Planta
https://doi.org/10.1007/s00425-019-03230-2


主たる結論
ニコチアナミン対デオキシムギネ酸の比がイネの組織特異的金属ホメオスタシスをコントロールしており、胚乳への金属の分配を制御している。
要旨
金属キレートファイトシデロフォアであるニコチアナミン(NA)と2’-デオキシムギネ酸(DMA)はイネ科植物の金属ホメオスタシスをコントロールする重要な因子である。
これらの化合物は金属ホメオスタシスに影響していると考えられているがその個々の役割や、NA:DMA比の変化の効果については知られていない。
我々は意図的にNA:DMA比のことなる高系統(HND)と低系統(LND)を作出した。
HDN系統は鉄、亜鉛、マンガン、銅をモミ殻から胚乳に鉄、亜鉛、マンガンを可動化して集積した。
これに対してLND系統では鉄、亜鉛、マンガンはモミ殻に移行したが、銅は胚乳に集積した。
したがって、HNDとLND系統では、種子での異なる金属分布を達成すべくそれぞれのグループの金属が吸収、移行され栄養成長期での組織に隔離される。
我々は内在性金属ホメオスタシス遺伝子群の異なるセットが、HNDとLND系統で調整されて、金属ホメオスタシスの違いを達成していることを見出した。
我々の発見はNA:DMA比がイネ科植物の金属ホメオスタシスの制御のキーとなる因子であることを実証したものである。
これらの発見は穀物における栄養成分の向上と栄養成分の利用性の向上に向けて、より精緻な戦略を構築するのに貢献しうるだろう。
   
   
図a,図bの説明
NA:DMA比によって統括されるイネの金属ホメオスタシスのメカニズムの基礎
a.HDNA系統はDMAよりもNAを多く生産し、NA:DMA比が高くなり、4種類(Fe,Zn,Mn,Cu)全部の元素の吸収(1)、根から地上部への移行(2)、中間葉からの再転流を促す。しかし鉄は止め葉の液胞に局在しており(4)亜鉛とマンガンのみが再転流している(5)。 HND系統では鉄、亜鉛、マンガン、銅は殻から種子へ移行し(6)、これら4種の金属は栄養組織から種子に移行し(7)胚乳に集積される(8)。
b.LND系統はNAよりもDMAを多く生産し、NA:DMA比が低くなり、根からの亜鉛と銅の吸収を促し(1)、根の液胞に鉄と亜鉛を局在し(2)、根から地上部へのこれら4元素の移行も促し(3)、中間葉からの4元素の再転流を促し(4)、止め葉からの亜鉛とマンガンの再転流を促す(5)。しかし鉄は止め葉の液胞に留まっている(6)。LND系統では鉄、亜鉛、マンガンは栄養組織から殻に移行し、そこで留まる。亜鉛と銅は栄養組織から種子に移行する。鉄と銅のみが胚乳に集積される。
  
図cの説明
LND系統イネの根、中間葉、止め葉、殻、玄米、胚乳における、鉄、亜鉛、マンガン、銅の濃度(µg/g乾物重)。HND系統はNA/DMA比が高い。*はstudent test で5%有意。

図dの説明
LND系統イネの根、中間葉、止め葉、殻、玄米、胚乳における、鉄、亜鉛、マンガン、銅の濃度(µg/g乾物重)。LND系統はNA/DMA比が低い。*はstudent test で5%有意。

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