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-植物鉄栄養研究会-


NPO法人
19生都営法特第463号
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植物―微生物の相互作用におけるクマリン類について

Date: 2019-08-20 (Tue)


植物―微生物の相互作用におけるクマリン類集合体について
The Age of Coumarins in Plant–Microbe Interactions
Ioannis A. Stringlis , Ronnie de Jonge and Corne´ M. J. Pieterse

Plant Cell Physiol. 60(7): 1405–1419 (2019) doi:10.1093/pcp/pcz076
クマリン類は植物由来のフェニールプロパノイド経路で生産される二次代謝産物である。
この過去10年間の間に、鉄欠乏土壌からの鉄吸収に貢献する、植物根から分泌される鉄可溶化物質として、クマリン類が登場してきた。
クマリンの構成メンバーは多くの植物に見出されている。
クマリン類は鉄吸収に対する役割以外に、動物や植物の感染抵抗能についても精力的に研究されてきた。
クマリンの活性は抗生物質や抗ウイルス剤から抗凝集剤や抗がん剤まで幅が広い。
近年タバコやアラビドプシスを用いて、クマリン生合成、集積、分泌、化学的変化、植物感染源に対する作用様式についての理解が飛躍的に増大した。
しかしここでは異なる植物種のクマリンについての最新の知見について総説する。
簡単なクマリン類に絞って、その生合成、環境ストレス応答における役割について総括する。とりわけ最近発見されたのクマリン類の植物の地上部と地下部植物での微生物との相互作用における信号化学物質としての役割と、根でのマイクロバイオームとしての集合体について述べる。
  
  
図1の説明
  
(a)鉄欠乏アラビドプシスCol-0の根に生成される蛍光性クマリン類の可視化
(b)植物由来の代表的な単純クマリン類とayapin(この役割は本文委述べる)の化学構造

 
図2の説明
  
エリシターによる誘導の可否による葉へのクマリンの集積と制御について。
scopolin とscopoletinを例に述べる。
健全葉ではscopolin と scopoletinの集積は低レベルである。不安定で毒性の強いscopoletinはglucosyltransferasesでglycosyl化されたscopolinとなる。Scopolinは細胞内に運ばれて液胞に貯蔵され、空間的にb-glucosidaseから隔離される。感染菌やエリシターによって、防御刺激を受けるとscopoletinは感染組織に集積しscopolinがその周辺組織に集積する(a)。scopolinが液胞から遊離してくるとb-glucosidasesの活性を受けてscopoletinとなる (b)。
つぎに、scopoletinは殺感染菌活性を発揮して感染組織のH2O2を消去し、そこの限定的な細胞死を起こす(c)。
感染アラビドプシスではMYB15 がF60H1 活性を制御し、続いてリグニンとscopoletinの集積が起こる(d)。
感染組織ではscopoletinの集積にMPK3が必要であることも見出されている。生成されたscopoletinはAtRbohD 活性によって生産されるH2O2によって酸化される。環境の様々な因子によって、植物はscopoletinのレベルを、glycosyltransferases によってscopolinに変換したり、逆にscopolinをb-glucosidasesによってscopoletinい変換したりしてコントロールすることができる(d)。

 
図3の説明
 
アラビドプシスやタバコで示唆される地下での植物―微生物相互作用時のクマリン生産。
scopolin, scopoletin, esculin , esculetinなどのクマリン類は健全なエリシター誘導されていないアラビドプシスの根やその分泌物には低水準で存在する。
感染菌で感染した根の場合はscopolinレベルが低下し、scopoletin (とfraxetin)が根内と分泌液に集積する。
有益なMYB72誘導性菌が寄生した根ではscopolin生産が増加する。BGLU42活性のおかげでscopolinはscopoletinに変換される。それはその後、根圏に放出され、そこでfraxetin や sideretinに代謝されるようである。クマリン生合成はF60H1の機能に依存しており、このF60H1遺伝子が皮層(C)で発現することが、このクマリンが主にこの細胞層で生合成されることを示唆している。その後、scopoletinは表皮細胞(E)に移行しS8H やCYP82C4の活性によってfraxetin や sideretinのそれぞれに変換される。
根圏ではscopoletinは異なる細菌叢により増殖を促進したり抑制したりする。しかしfraxetin や sideretinの役割に関してはこの点に関しては未知である。
クマリン類は微生物の運動性を抑制する作用がある点では生育ネガテイブである。それはtype III 分泌システム(T3SS)を抑制したり微生物細胞膜を破壊したりすることによるものである。






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図1.

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図2.

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図3.