WINEP

-植物鉄栄養研究会-


NPO法人
19生都営法特第463号
転載希望時は連絡先まで

ポリフェノールと ”キバウミニナ” が関与するマングローブ生態系からの可溶性鉄の溶出

Date: 2019-08-14 (Wed)

ポリフェノールと ”キバウミニナ” が関与するマングローブ生態系からの可溶性鉄の溶出

Dissolved iron elution from mangrove ecosystem associated with polyphenols and a herbivorous snail
Ko Hinokidani , Yasuhiro Nakanishi
DOI: 10.1002/ece3.5199
Ecology and Evolution published by John Wiley & Sons Ltd.

要約

鉄は陸地には豊富であるが、海水中では生物が利用可能な鉄が少ないので、陸の森林や湿地帯から海に向かって可溶性鉄を供給するシステムについての関心が高まっている。 このことが海洋植物プランクトンの生育の制限因子になっている可能性がある。海水に溶けている典型的な有機体鉄は森林土壌や湿地から河川を通じて海洋に供給されている。
そこで、関連する研究課題として我々は陸と海の境界域に位置するマングローブのエコシステムに注目して、鉄化合物を形成するリガンドとして葉に存在する葉のポリフェノールに着目した。
マングローブが湿地の森林の林床に落葉すると、葉からフェノール性化合物が溶出して浮泥の不溶性鉄を可溶化する(鉄化合物の生成)。しかし、野外でのこの反応のメカニズムは簡単ではなく、潮流や、マングローブの落葉を消費するカニや巻貝による干渉などにより、ことはさらに複雑になる。
本研究では浮泥食性の巻貝キバウミニナ(Terebralia palustris)をフェノール性化合物による鉄可溶化の促進者として、どのようにしてこの巻貝が、鉄の可溶化過程に貢献しているかを調べた。
研究の結果、マングローブの低質のなかのフェノール化合物の量と鉄の可溶化は強い関係があることが分かった。
さらに、巻貝が生息する低質の中の鉄の平均可溶化量とフェノール化合物量は、巻貝が生息しない低質よりも有意に高かった。
さらに付け加えるとマングローブの低質に巻貝の糞を加えると鉄の可溶化が促進された。
結論として、マングローブの低質においては、
i) 低湿の鉄含量 ii)マングローブ由来のフェノール性化合物 iii)巻貝による葉の消費と糞の集積
等の相互作用によって鉄の可溶化が促進されていることがわかった。

photo
巻貝 キバウミニナ

photo
汽水域マングローブ生態系での鉄の溶出機構モデル