WINEP

-植物鉄栄養研究会-


NPO法人
19生都営法特第463号
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レビュー: 主要穀物の鉄含量の増強:植物遺伝学のこれまでとこれからのチャレンジ

Date: 2019-08-07 (Wed)

主要穀物の鉄含量の増強:植物遺伝学のこれまでとこれからのチャレンジ

Iron Biofortification of Staple Crops: Lessons and Challenges in Plant Genetics

James M. Connorton and Janneke Balk

Plant Cell Physiol. 60(7): 1447–1456 (2019) doi:10.1093/pcp/pcz079, available online at https://academic.oup.com/pcp

(要旨)

植物は主要穀物や野菜としてばかりでなく、動物の飼料としても、我々の食品の究極の鉄供給源である。
植物の可食部の鉄含量を増強する事は「biofortification」として知られているが、これは一つの主要な世界の健康課題である「鉄欠乏症」を軽減するための、持続可能なアプローチだと考えられている。
 
遺伝子解読や遺伝子工学の発展がこの問題への正・逆の遺伝学からのアプローチを加速している。
 
この総説は、伝統的育種学と遺伝子導入法に依る鉄含量のbiofortification(生物的強化)に関する最近の進歩について取りまとめたものである。
 
面白いことに、すでに遺伝子工学的にアプローチされてきた標的遺伝子のいくつかは、広域ゲノム解析研究によっても高鉄含量に関係する遺伝因子であると同定されていることである。
 
いくつかの量的形質遺伝子座(QTL:quantitative trait loci )と導入遺伝子( transgenes)は、鉄と亜鉛の二つの微量元素が、トランスポーターとキレーターが互いに重なり合うことによって、両者の含量が増加する。
 
研究は主に全鉄含量を増加させることが努力目的であるが、それと同時に生物的利用性の向上にも取り組まれている。
 
特に、金属キレーターであるニコチアナミンの生合成を増加させると鉄と亜鉛のレベルを増加させ、生物的利用性も高まる。
 
これまでの成果は世界の増大する人口を食べさせるために、肉類への依存を減らした食品に十分な鉄含量を提供できる展望を抱かせるものである。


  
以下、図1、図2、と表1 の説明です。

  
表1植物性食品の鉄含有量

   
図1.鉄ホメオスタシスの生理的プロセスと鉄の生物的強化に用いられた遺伝子群。
小麦種子(Triticum aestivum)とソラマメ(P. vulgaris)の横断面をパール染色法(青)で鉄を染めたもの。これらの2種類の種子では基本的に異なる部位で鉄が分布していることがわかる。
Al, aleurone; Em, Embryo; ES, endosperm; Sc, Scutellum; Cot, cotyledon; Plu, plumule with first true leaves; Rad,
radical. バーのスケールは 1 mm.
  

図2.鉄含量の生物的強化を可能にする異なる研究鎖。
ゲノム塩基配列革命で、QTLマッピングやGWAS
等の正遺伝学によるアプローチで、鉄ホメオスタシス関連遺伝子の発見が容易になった。
候補遺伝子群の遺伝子多型がより高い鉄含有レベルを引き起こす原因であるかどうかは、TILLING変異株やゲノム編集で検証できるようになった。
同時に、高鉄含有に関する遺伝子座の遺伝子マーカーは育種目的に使い得る。
逆遺伝学からのアプローチでは、既知の鉄ホメオスタシ遺伝子群の発現を操作することによって種子中の鉄濃度を増加させることができる。




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表1.

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図1.

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図2.