WINEP

-植物鉄栄養研究会-


NPO法人
19生都営法特第463号
転載希望時は連絡先まで

イネの鉄過剰ストレスの緩和にはOsNAS3遺伝子発現によるニコチアナミン合成が重要である

Date: 2019-07-10 (Wed)

イネの鉄過剰ストレスの緩和にはOsNAS3遺伝子発現によるニコチアナミン合成が重要である



Nicotianamine Synthesis by OsNAS3 Is Important for Mitigating Iron Excess Stress in Rice

May Sann Aung, Hiroshi Masuda, Tomoko Nozoye, Takanori Kobayashi, Jong-Seong Jeon, Gynheung An, and Naoko K. Nishizawa

Front Plant Sci. 2019; 10: 660.
Published online 2019 Jun 4. doi: 10.3389/fpls.2019.00660
PMCID: PMC6558524
PMID: 31231401


イネの鉄過剰ストレスの緩和にはOsNAS3遺伝子発現によるニコチアナミン合成が重要である


(要約)
植物の鉄過剰害は組織の破壊や細胞のホメオスタシスの無秩序を招来し植物の生育と発達に影響を与える。ニコチアナミン(NA)は普遍的な金属陽イオンのキレーターで金属のホメオスタシスに応答している。イネは3種類のNA合成酵素遺伝子(NAS)を持っており、そのうちのOsNAS1 とOsNAS2 は鉄欠乏に応答して強く誘導されるが、OsNAS3はそうではない。最近我々はOsNAS3遺伝子が鉄過剰イネの多くの組織、とりわけ旧葉で発現していることを見出したが、このことはこの遺伝子発現が過剰鉄条件下できわめて重大な役割を担っていることを示唆していた。しかしイネの過剰鉄条件下でのOsNAS3遺伝子応答機構はこれまで理解されていない。
本研究では鉄過剰に対するOsNAS3遺伝子の生理的応答とNA合成の役割について解明した。Promoter-GUS分析によって、対照区に比べて、鉄過剰区ではOsNAS3は根の維管束梢、表皮、外皮、茎、旧葉組織という広範な組織に発現していた。対照区と同様に鉄過剰区の根部や地上部においてもNAやDMA(Strategy-II植物で合成される)が存在した。
さらにOsNAS3ノックアウトイネは、非形質転換イネに比べて鉄過剰に感受性であり、生育が貧弱であり、乾物重が減少し、葉のブロンジングが深刻であり、葉への鉄集積量が高かった。さらに我々はNA-過剰発現イネが鉄過剰に耐性であることも観察した。
これらの事は鉄過剰条件下でのOsNAS3遺伝子によって合成されるNAは過剰鉄を軽減し、一方、通常の鉄栄養条件下でOsNAS1遺伝子や OsNAS2遺伝子発現によって合成されるNAは鉄の移行を促進するという、鉄の有無という2つの条件の間ではNAの存在の役割と作用が異なることを示唆している。
以上これらの発見は、鉄過剰条件下でイネの地上部と地下部ではOsNAS3遺伝子発現によるNAが合成されること、植物体内でのNAとDMAは鉄過剰ストレスを緩和し、他の金属欠乏を軽減するのに重要であることを示唆している。また、この論文は鉄過剰汚染土壌に適応した耐性のイネを創成するのに重要であると考えられる。


(下図の説明)
対照イネ(NT)とOsNASノックアウトイネの生育の様相(A)と、葉位別ブロンジング値(B)

photo