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-植物鉄栄養研究会-


NPO法人
19生都営法特第463号
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鉄制限条件下での植物の生育に必要なMYB10 と MYB72

Date: 2019-04-01 (Mon)

以下はGuerinot一派の少し古い文献であるが、重要なので遡って紹介しておいた。

  
  
鉄制限条件下での植物の生育に必要なMYB10 と MYB72

Christine M. Palmer, Maria N. Hindt, Holger Schmidt, Stephan Clemens, Mary Lou Guerinot

PLoS Genet 9(11): e1003953. doi:10.1371/journal.pgen.1003953

(要旨)
鉄は植物の光合成に必須であり、時には生産性の制限要因になる。
植物は鉄ホメオスタシスに関係するキー遺伝子群の転写物含量を増加することによって、鉄欠乏条件に応答しているが、これらの遺伝子の制御因子はまだわずかにしか同定されていない。
我々は広域ゲノム発現分析法によって、植物を鉄十分条件から鉄欠乏条件に移したあと24時間以内に誘導される転写因子を調べた。

およそ100個の転写因子がアップレギュレートされていたが、そのうちMYB10 とMYB72が最も強く誘導されている転写因子であった。
ここに我々はMYB10 と MYB72は作用が重複しており、鉄の利用性が極度に制限されているアルカリ土壌での植物の生き残りにとって必要であることを示す。

myb10myb72 ダブル変異株はニコチアナミン合成酵素遺伝子(NAS4)の転写ができなかった。

myb10myb72 mutants変異株とnas4-1 変異株は鉄欠乏条件下での鉄含量の低下、クロロフィルレベルの低下および地上部重を低下させた。このことはこれらの遺伝子が植物の適切な成育にとって必須であることを意味している。

また、myb10myb72二重変異株はnas4変異株と同様にニッケルや亜鉛に対する感受性を高めた。

NAS4を異所的に発現させるとmyb10myb72変異株が回復した。このことはNAS4が発現しなくなることがこれらの植物で優先的な欠失であることを示しており、鉄ホメオスタシスにとって鉄キレーターとしてのニコチアナミンが重要であることを強調するものである。

総括すると、我々の実験結果は鉄欠乏制御のカスケードの中でもNAS4遺伝子の発現をMYB10 と MYB72がドライブすることが、鉄欠乏条件下での植物の生き残りに本質的なことであることを証明するものである。

(著者によるサマリー)
鉄欠乏は最も普遍的な人の栄養の変調であり、30億人以上の世界人口を悩ませている。
これらの多くの人は主に植物から鉄に依存している。
鉄は、また、植物の成長を制限する主要な3つの栄養素の一つである。
植物体内で鉄がどのようにめぐっているのかの追跡調査は進んでいるにもかかわらず、植物がどのように鉄を感知し鉄の利用性に応答しているのかに関してはまだ十分にはわかっていない。
ここで我々は、鉄の利用性が極端に制限されているアルカリ土壌での植物の生育にとって主要なインパクトを与える一つの遺伝子に作用する二つの表面上重複するMYBr転写因子について報告する。
これらの転写因子が欠損していると植物はこの土壌では生育できない。
世界の土壌の3分の1はアルカリ性なのでどのように植物がうまく対処しているかを理解することは、作物がたとえ現在は農業的に不毛な土壌にでも作物生産が可能になる可能性がある。
また、これらの2つの転写因子は鉄欠乏ネットワークに波及し、このネットワークは植物の鉄吸収と分布にまで発揮する緊密な制御に関する洞察力を与えるだろう。



下図の説明
鉄欠乏条件下での転写応答におけるMYB10, MYB72, FIT と PYEの関係。すべての相互作用はそれぞれのプロモーターと直接結合するものと信じられている。


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