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-植物鉄栄養研究会-


NPO法人
19生都営法特第463号
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ミニレビュー: 植物の鉄ホメオスタシスの転写制御:bHLH転写因子群の物語?

Date: 2019-02-13 (Wed)

植物の鉄ホメオスタシスの転写制御:bHLH転写因子群の物語?
The Transcriptional Control of Iron Homeostasis in Plants: A Tale of bHLH Transcription Factors?
Fei Gao,Kevin Robe,Frederic Gaymard, Esther Izquierdo, and Christian Dubos

Front Plant Sci. 2019; 10: 6.
Published online 2019 Jan 18. doi: 10.3389/fpls.2019.00006
PMCID: PMC6345679
PMID: 30713541

Received 2018 Nov 16; Accepted 2019 Jan 7.

(要旨)
鉄は植物において多くの細胞機能(例えば、光合成や呼吸)に関係している最も重要な微量元素である。
鉄の利用性のいかなる欠損でも植物の生育、発達、作物の収量や生産物の質に影響を与えるだろう。
だからこの鉄元素の最適な吸収を保証するために鉄ホメオスタシスは強固にコントロールされていなければならない。
植物の鉄ホメオスタシスの統御機構を理解することが過去10年間の数件の研究の焦点であった。
これらの研究によって精緻な鉄依存性の転写制御のネットワークがあきらかにされて我々の理解が大いに進展した。
驚いたことに、これらの研究によってこの制御網は数多くの同一の転写因子(TF)のグループ、すなわちbHLH(basic helix-loop-helix)ファミリーの活性に依拠していることも明らかにされてきた。
このことはアラビドプシスで最もよく実証されており、16個のbHLH型のTFが複雑な制御のカスケード作用の過程に関係している。
興味深いことにこれらのbHLH TFの中には、鉄ホメオスタシスの維持という特異な作用に貢献している特殊なカスケードがあるものがあり、これは緑色植物の進化の過程で獲得されたものと思われる。
このミニレビューでは鉄ホメオスタシスの制御とbHLH TFの鉄代謝プロセスへの関与について新しく考察する。


(下図の説明)
アラビドプシスにおける鉄欠乏応答をコントロールするbHLH依存性転写制御ネットワーク
   
アラビドプシスの鉄欠乏応答に関わる制御ネットワークの上流には、 進化系統樹上のIVc 分枝群に属する4つの転写因子、すなわちbHLH34, bHLH104, bHLH105/ILR3 (IAA-LEUCINE RESISTANT3), bHLH115がある.
これら4つの転写因子は生体内においてホモ二量体かまたはヘテロ二量体として、植物の鉄欠乏応答の転写活性化因子として働き、bHLH47/PYE (POPEYE; IVb分枝) と4つの 分枝 Ib bHLH遺伝子群 (bHLH38, bHLH39, bHLH100, and bHLH101)を標的とする部分的に相互に冗長な活性を示す。
PYEは転写抑制因子として働く。例えばPYEは、鉄が師管経由でシンク(sink)器官への移行に関係しているキー遺伝子NAS4 (NICOTIANAMINE SYNTHASE 4)や、根の師管のミトコンドリアに存在する鉄還元酵素FRO3遺伝子の発現を抑制する。
興味深いことにPYEは生体内でbHLH104, ILR3, bHLH115と相互作用しうる。
これらの相互作用が植物の鉄欠乏応答や鉄ホメオスタシス(恒常性維持)の役割を有しているかどうかは今後解明されるべき重要な事項である。
これに対して、bHLH38, bHLH39, bHLH100, bHLH101は部分的に相互に冗長性を有するタンパクであり、根の表皮細胞でFRO2とIRT1遺伝子発現に対してプラスの制御因子として働く。
この活性はこれらの因子とIIIa bHLH であるFIT(Fe-deficiency induced transcription factor)との相互作用に依存している。
FITの発現は少なくとも部分的にはbHLHが関係するforward regulatory loop(:個々の語彙は翻訳不能)の供給によってコントロールされているように思われる。
bHLH6/MYC2 (IIIe分枝)は、ジャスモン酸のシグナル伝達経路のマスター制御因子であり、その活性はIVa bHLH (bHLH18, bHLH19, bHLH20, bHLH25)の遺伝子の発現にそれぞれ異なる影響を与え、FITタンパクの集積を調整している。
この機構はFITが26S プロテアゾーム経路(proteasome pathway)による分解を受けることを促進するためにIVa bHLH群が FITと直接的な相互作用することに依存している.
さらに、MYC2はFITと、Ib分枝 bHLH遺伝子群の発現、に対するジャスモン酸依存性抑制因子でもあるので、FIT依存性の転写レベルと転写後制御レベルで鉄吸収機構を阻害する。
興味深いことに、アラビドプシスの鉄レベルに影響を与える鉄吸収機構において、もう一つのIVb bHLHであるbHLH11が、最近負の制御因子(negative regulator)であることが提唱されている。
総括すると、これで、アラビドプシスに133個あるbHLH型転写因子のうちの16個が、鉄欠乏応答のコントロールに関係するbHLHと同定された。これはこの大きな転写因子ファミリーの12%以上を占めることになる。


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アラビドプシスの鉄栄養制御に関わるbHLH転写因子の相関図