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-植物鉄栄養研究会-


NPO法人
19生都営法特第463号
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すいりの人参(台所からの報告)

Date: 2019-02-07 (Thu)

すいりの人参(台所からの報告)

小生はニンジンがなぜか苦手である。そのニンジンをビタミンAの供給源だからと思って、家人が頻繁に料理する。本物の「朝鮮ニンジン」を飲むとすぐにわかるのだが、血圧が急上昇する。元来低血圧の小生には、ニンジンのこの作用を有する微量成分(たぶんサポニン)に体が反応するので、好きになれないのかもしれない。

ある時、小生がニンジンを輪切りにしていると、なんと! 通導組織に沿って菱形の穴が開いているのに気が付いた(図3)。切り続けると穴は3センチ以上つながっているものもある(図4)。大根やゴボウなどでは結構頻繁に出会うことがあるが、いわゆる「すいり」である。人参に出会ったのは今回が初めてである。

これは植物栄養学では常識であるのだが「ホウ素(B)欠乏症」である。簡略化して言うと、必須元素である「ホウ素」「がないために、細胞壁の接着構成成分であるペクチンが形成されなくて、細胞壁がもろくなって空洞化したものである。

図1と図2に示すように、ぺクチンの3構成分の内の
「ラムノガラクタンII(RG-II)という成分の、側鎖の根元に存在する希少糖であるアピオ―ス残基(図中青い五角形で示す)が、4価のホウ素でジエステル結合することで、RGII分子同士の2量体として架橋し、強固な細胞壁形成に貢献している。ホウ素欠乏状態ではRGIIの2量体形成ができないので細胞壁がもろくなり、植物に著しいダメージを生ずる:::::」(化学と生物 解説 竹中悠人・梶浦裕之・石水毅「植物細胞壁多糖の生合成」2019、Vol.57 No.2 p88−94 より引用修文した)

このRG-IIとホウ素の関係を世界で最初に発見したのは、京都大学植物栄養学研究室の間藤徹一派です。その後ホウ素の輸送体の発見とそのダイナミックスを遺伝子レベルで発展させているのは、東京大学植物栄養学研究室の藤原徹とその弟子たちです。


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図3. すいりのニンジンの横断面

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図4.すいりのニンジンの連続横断面

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ペクチンの構造モデル 化学と生物  「植物細胞壁多糖の生合成」2019、Vol.57 No.2 p88−94 より