WINEP

-植物鉄栄養研究会-


NPO法人
19生都営法特第463号
転載希望時は連絡先まで

Strategy-I植物が鉄欠乏条件下の土壌で不溶態の鉄を獲得するために必須の二次代謝産物

Date: 2019-01-18 (Fri)

はじめに若干の解説をしておきたい。
以下の論文は、Strategy-I植物が鉄欠乏条件下で根から排出するクマリン系化合物について、これが排出のトランスポーターPDR9を経由して根圏に分泌されて、根圏の不溶性鉄を「三価鉄クマリン」として可溶化する、という予想をしているものである。三価鉄クマリンが、そのあと二価鉄クマリンに自動還元する能力があるかどうか(現在は証明されている)、あるいは細胞膜上の還元酵素FRO2によって二価鉄に還元されるのか、この時点ではわからなかったのだが、三価鉄クマリンの鉄は最終的に細胞膜上の二価鉄イオントランスポーターであるIRT1を経由して二価鉄イオンとして細胞内に吸収される、という、現今のモデルの先駆けとなる仮説を提供している。すこし旧い論文だが紹介した。

 文中のリボフラビンに関しては、ムギネ酸の発見者高城成一先生が、早くから(小生の記憶が定かではないが)
きゅうりの根からの分泌物から発見していて、いろいろ調べた結果、鉄溶解力活性はないと結論付けていたものである。
 Strategy-Iの西欧陣営の研究者は、なんとしてでもイネ科植物のムギネ酸に匹敵する化合物をStrategy-I植物の根圏分泌物から見出したかったのだが、分泌量が少なく、分解が早いために、なかなか見いだせなかった。今回、転写産物のビッグデータの解析からstrategy-I植物でクマリン系生合成経路が鉄欠乏で有意に発現していることを発見したものである。

 しかし、Strategy-I植物の細胞膜上には「ムギネ酸鉄吸収トランスポーター」のようなものがいまだに同定されていないので、クマリン系化合物をphytosiderophoreと呼ぶのは言い過ぎだと小生は思っている。 (森敏 記)
----------


(論文タイトル)
鉄欠乏条件下で不溶態の鉄を獲得するために必須
の二次代謝産物はアラビドプシスとウマゴヤシで互いに異なる

Mutually Exclusive Alterations in Secondary Metabolism
Are Critical for the Uptake of Insoluble Iron Compounds
by Arabidopsis and Medicago truncatula
Jorge Rodríguez-Celma, Wen-Dar Lin, Guin-Mau Fu, Javier Abadía, Ana-Flor López-Millán, and Wolfgang Schmidt
 
Plant Physiology, July 2013, Vol. 162, pp. 1473–1485

(要旨)
酸化的土壌条件下では一般的に鉄が生物にとって利用性が低いので、植物の側はこの土壌の貧弱な可溶性鉄や不溶性鉄の貯蔵庫から鉄を獲得するために、巧妙な戦略を遺伝的に進化させてきた。これらの戦略で共通に保存されている成分と「種」依存的な成分を明らかにするために、二つのモデル植物としてアラビドプシス (Arabidopsis thaliana) とウマゴヤシ(Medicago truncatula)の鉄欠乏誘導性転写産物の変化を比較解析した。
 RNA配列の転写 プロファイリングによって、鉄欠乏条件下では、 M. truncatulaの場合はリボフラビン生合成に関わる酵素群が、Arabidopsisではフェニルプロパノイド合成に関わる酵素群が大規模に転写制御されていた。
 遺伝子の共発現とプロモーター解析から、フラビン類の合成とフェニルプロパノイド類の合成は互いに強くリンクしており、鉄吸収に関わるタンパクをコードする遺伝子と共制御されていると推測された。
 フェノール性酸の生産と分泌は低い生物利用性の鉄供給源からの鉄吸収に必須であるが、鉄が容易に得られる条件下では重要ではない。
 アラビドプシスでは、Fe(II)と 2-oxoglutarate-依存 dioxygenaseファミリー遺伝子 F69H1のホモ変異や、フェニルプロパノイド合成経路上の化合物を細胞外に排出すると思われるPLEIOTROPIC DRUG RESISTANCE9遺伝子発現の欠失は、生物利用性の低い鉄源からの鉄吸収を危うくする。
 この2種の変異株は野生株のアラビドプシス かウマゴヤシ の苗木と一緒に植えると、たぶん野生株によるフェノール性酸類かフラビン類のせいで部分的に回復した。
 鉄の吸収を助ける化合物の生産と分泌は必要条件であるが、三価の鉄を二価に還元することによる鉄獲得戦略についての理解はまだ貧弱である。この機構は自然条件下での鉄吸収の効率を上げることに大きく貢献していると思われるからである。