WINEP

-植物鉄栄養研究会-


NPO法人
19生都営法特第463号
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シアノバクテリアの内在性鉄と応答するフェレドキシンについて

Date: 2018-12-19 (Wed)

光合成生物の低鉄栄養応答の役者である唯一のフェレドキシンについて

A unique ferredoxin acts as a player in the low-iron response of photosynthetic organisms
Michael Schorsch, Manuela Kramer, Tatjana Goss, Marion Eisenhut, Nigel Robinson, Deenah Osman,
Annegret Wilde, Shamaila Sadaf, Hendrik Brückler, Lorenz Walder, Renate Scheibe, Toshiharu Hase, and Guy T. Hanke

www.pnas.org/cgi/doi/10.1073/pnas.1810379115 PNAS Latest Articles | 1 of 10
 
(要旨)

鉄は水圏、特に海洋での光合成の時間的制限因子である。シアノバクテリアを含む光合成バクテリアにとって、鉄ホメオスタシスを正確に感知して維持することは地球規模で有意義なことである。
これまでに、シアノバクテリアが鉄濃度に応答して多様に適応するメアニズム、すなわち鉄応答性プロモーター、転写後制御因子などが同定されてきた。
しかし多くの因子、とくにどのようにして細胞内で鉄の状態が感知されるのかについてはいまだ不明な点が多い。
我々はこの論文でシアノバクテリアのフェレドキシン Fed2(cyanobacterial ferredoxin)のC−端末側アミノ酸配列が鉄の感知に役割を担っていることについて述べる。
Fed2タンパクのホモログは、シアノバクテリアから高等植物までの光合成生物では高度にアミノ酸配列が保存されている。これらは[2Fe-2S]ファミリータイプの植物の光合成電子の担い手であるが、実際の光合成電子伝達には関与していない。
fed2遺伝子を欠損させると致死性であったので、このタンパクのC末端を切り離した系を作成してこのタンパクの作用を弱めてみた。
Fed2の作用がかく乱させられるとクロロフィルの蓄積が減少した。この傾向は鉄欠乏培地で誇張されたが、遺伝子の
様々な欠失の仕方によって、低鉄濃度に対する応答が誇張されたり弱められたりした。
それにもかかわらず、すべての変異株では鉄濃度が一定か
あるいは上昇した。
さらにくわしく分析すると、Fed2の作用が摂動させられると、古典的な意味での鉄制限マーカーIsiAが、転写
レベルでもタンパクレベルでも蓄積しなくなった。

(まえがき)

酸化的光合成は24億年前に地球上に発生した。その結果それまで嫌気的であった環境が酸素で覆われるようになってきた。
可溶性鉄イオンFe2+がFe3+に酸化されるので、鉄の生物的利用可能性が著しく減少し、このことが現在では多くの水圏の生産性の制限因子になっている。
このことはクロロプラストの共生的起源と言われているシアノバクテリアにとって特に問題である。なぜなら多様なヘム化合物、Fe-Sクラスター、鉄を含むコファクターなどは呼吸鎖や光合成電子伝達系に必要だからである。
世界の海面の40%は鉄がシアノバクテリアの生育の制限因子になっていると考えられており、鉄を水圏環境に施肥すると爆発的に大量発生することが実験的に確かめられている。
このように鉄はコファクターの中で必須の役割を担っているが、鉄は非結合状態では細胞内環境では潜在的に高度に有毒である。それは過酸化水素からの危険なラジカル(・OH)の発生を触媒するからである。
生物の生存にとって、生物は細胞内鉄の状態の高感受性のメカニズムと、そのシグナルを順化応答に変換するメカニズムを発達させることが必須である。
これらのメカニズムで鉄の利用性を最適化し、他方では過剰鉄の毒性を回避するのである。
シアノバクテリアでは低鉄濃度に対する最もドラマテイックな応答は光合成装置の仕組みを換えることである。
すなわち、IsiAアンテナタンパク(CP43′)が発現誘導され、含鉄電子伝達タンパクであるフェレドキシン(Fd)が、同等の作用性を有する鉄を必要としないフラボドキシン(Fld, IsiB)に取って代わられる。
二つの光合成システム特にphotosystem I (PSI)は3つの[4Fe-4S]クラスターを持っており、同じく(鉄によって)ダウンレギュレートされている。
IsiAは残余のPSIと相互作用しており蛍光消去剤としてか、PSIを経由した電子伝達の加速化に寄与していると考えられている。
PSI と photosystem II (PSII)のIsiAとの超結合体が長期にわたる鉄欠乏処理によって同定された。
IsiAタンパク と IsiBタンパクは鉄欠乏ストレス誘導性(isi)オペロンisiA と isiBからそれぞれ発現された。
isiAB オペロンの遺伝子発現は鉄十分条件下で抑制されていると思われるが、これは生物界で広範囲に使われている鉄制御因子FurAタンパクがFe2+と結合することによるものである。しかし、その後の研究ではこの結合サイトの上流にはさらに主要な制御因子が存在していると考えられ、まだ実態は未解明である。
IsiAタンパクの全量は内在性のアンチセンスRNA(IsrR)によってmRNAの安定性のレベルでコントロールされている。
しかしidiCBオペロンなどほかの多様なシアノバクテリアの鉄応答性因子などに関してはまだわずかしかわかっていない。
光合成フェレドキシン遺伝子 (petF)は鉄欠乏条件下で抑制されているが、多くのシアノバクテリアは少なくともあと3つのフェレドキシン[2Fe-2S]Fdを持っている。
これらは特異的なヘテロシストや暗反応に関係している従属栄養的フェレドキシンFdxHを含んでいる。そしてまた、ほかの1つか2つのC末端が延長したフェレドキシンを含んでいる。
高等植物ではC−末端が延長したフェレドキシンタンパクのホモログはFdC1 (Fd with C-terminal extension)やFdC2と呼ばれている。
シアノバクテリアのモデル種であるSynechocystis sp. PCC 6803(今後これをSynechocystisと呼ぶ)で高等植物のFdC2に近接のホモログをFed2 (sll1382)と命名したが、C−末端部分にPetFと比べて伸展した22アミノ酸残基を有する。
高等植物と藻類のゲノムには10種類の異なる[2Fe-2S] フェレドキシンタンパクをコードする遺伝子があるので、Fed2/FdC2ホモログの命名はかなりさまざまである:アラビドではFd6 または FdC2 (AT1G32550.1)、イネではFdC2 (Os03g0685000)、藻類クラミドモナスで Fdx6(ABC88605.1) と呼ばれている。
Fed2/FdC2ホモログはすべての光合成生物に存在すると思われ、興味深いことにこれはシアノバクテリアでは必須であることが分かった。
これまでに高等植物ではトランスポゾン挿入(T−DNA)ノックアウトは同定されていないが、イネの一アミノ酸置換変異株は生育が遅延し淡緑色の表現系を示している。
Synechocystisでのfed2遺伝子は酸化ストレスと重金属ストレスでアップレギュレートされる。またクラミドモナスの
ホモログFdx6は低濃度の鉄で発現が増加する。しかしこれらの作用は未解明である。
Koltonらによる以前の遺伝子組み替え体では、His-tagged をつけたアラビドプシスの Fd6/FdC2は、PSI とNADPH間の電子伝達を行い、Fd:NADP(H) oxidoreductase (FNR)によって伝達が減速された。しかし、FdC2とFNRとの親和性はいずれも非常に低かった。
その上、このタンパクはチラコイド膜やmRNAに結合して検出されたが、その特異的役割は同定されていない。
本研究ではわれわれはSynechocystisの作用を破壊してFed2の生理的役割を理解しようとした。
我々のデータはFed2タンパクがシアノバクテリアの鉄感知またはホメオスタシスに決定的な成分であることを示している。






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C−末端アミノ酸配列の相同性