WINEP

-植物鉄栄養研究会-


NPO法人
19生都営法特第463号
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アラビドプシスの根では、地上部からのOPT3トランスポーターを必要とする鉄シグナル伝達経路がGSNO還元酵素とエチレンを制御している

Date: 2018-10-16 (Tue)

ここで紹介する論文が編集部に受理された時点では、この論文の著者たちは、以下のすでにWINEPホームページでで紹介した2つの論文がまだ出版されていなかった。そのために、この論文で提案されている、仮説の段階の仮称LOng Distance Iron Signal (LODIS)なる鉄キレート物質が、実は以下の論文が同定しているFEPまたはIRON MAN(この両者は同じものである)なるペプチドであることを、知らなかったのである。図らずも出版は後発になってしまったが、端末に紹介している鉄栄養のシグナル伝達の系図は、現下の鉄栄養研究の成果をよく整理してくれていると思われる。 
  
○仮称の新規ペプチドFEP1はアラビドプシスの鉄欠乏応答を制御する

○「IRON MAN」 は植物の鉄輸送をコントロールする偏在(ユビキタスな)ペプチドファミリーである





アラビドプシスの根では、地上部からのOPT3トランスポーターを必要とする鉄シグナル伝達経路がGSNO還元酵素とエチレンを制御している
  
A Shoot Fe Signaling Pathway Requiring the OPT3 Transporter Controls GSNO Reductase and Ethylene in Arabidopsis thaliana Roots
   
María J. García, Francisco J. Corpas, Carlos Lucena, Esteban Alcántara, Rafael Pérez-Vicente, Ángel M. Zamarreño, Eva Bacaicoa, José M. García-Mina,
Petra Bauer5 and Francisco J. Romera

Front. Plant Sci. 9:1325.
doi: 10.3389/fpls.2018.01325

    
(要旨)
Strategy-I植物では, エチレン, 一酸化窒素(NO), グルタチオン(GSH)は鉄欠乏条件下の根で増加する。これらは根での鉄獲得遺伝子群をアップレギュレートしている。しかし, 鉄欠乏根ではNOとGSHに由来するGSNO含量は低下する。GSNO含量はGSNO分解酵素である S-nitrosoglutathione reductase (GSNOR)に制御されている。

一方、鉄獲得遺伝子群の制御は、単にホルモン類や活性化因子としてのシグナル分子(エチレンやNO)に依存しているのではなく、植物体内のリプレッサー(抑制因子)として働くであろう「鉄含量」にも依存している。

さらにさまざまな実験結果からは、根の全鉄含量が鉄獲得遺伝子のリプレッサーなのではなく、むしろ師管を経由して地上部から地下部に移動する「鉄シグナル」(ここではLOng Distance Iron Signal (LODIS)と銘打つが)がリプレッサーなのである。

LODIS、ethylene、 GSNORの3者間の相互作用の可能性さぐるために、アラビドプシスの野生株コロンビアと, LODISが欠損した 変異株opt3-2 を用いて, LODIS含量が変化する異なる鉄濃度で処理してみた。
この opt3-2変異株 は地上部の鉄を師管に乗せることができず、鉄獲得遺伝子群を恒常的に発現した。

コロンビア株とopt3-2株では, ともに1-aminocyclopropane-1-carboxylic acid (ACC;エチレン前駆体)含量、エチレン合成酵素遺伝子とシグナル遺伝子の発現を、GSNOR遺伝子発現とその酵素活性を検出した。

“エチレン”(ここではACCとエチレン合成酵素とシグナル遺伝子群も意味する)と“GSNOR”(ここでは遺伝子発現も酵素活性も意味する)は、ともに鉄欠乏コロンビア野生株の根で上昇した。

さらに鉄十分条件下のopt3-2変異株はコロンビア株の鉄十分の根よりも高い“エチレン”と“GSNOR”を示した。

これらの“エチレン”と“GSNOR”の増加は根の全鉄含量とは関係がなく、むしろ地上部の鉄シグナル(LODIS)の欠失に関係するもので、鉄獲得遺伝子のアップレギュレーションと連動していた。

GSNOR(GSNO)とエチレンとの連携の可能性についても考察した。

Keywords: ethylene, glutathione (GSH), iron, long distance iron signal (LODIS), nitric oxide (NO), phloem,
S-nitrosoglutathione (GSNO), S-nitrosoglutathione reductase (GSNOR)


下図の説明
LODISの鉄獲得遺伝子群の制御への役割を表現する作業モデル

鉄は一度根に入るとクエン酸と結合して、例えばFRD3というトランスポーターで導管に入り葉に運ばれる。地上部ではある種の鉄は(フリーのイオンであれ、キレート型であれ)、OPT3トランスポーターを通じて師管に入り、キレート化合物(LODIS)を形成して再度根に戻される。根ではLODISはエチレン合成とシグナル化に負に働き、GSNOR遺伝子発現または酵素活性に影響しGSNOの発生の促進を可能にする。LODIS以外に鉄応答に対するリプレッサーとしては、地上部のほかのシグナル、例えばショ糖やオーキシンがNOを経由して鉄応答の活性化因子として作用しているだろう。
緑色は遺伝子発現/酵素活性/含有量が鉄欠乏条件下で増加する事が知られていることを示している。一方、赤色は遺伝子発現、酵素活性、または成分含量が、鉄十分条件下で増加することを示している。
chel, chelating agent; GSH, glutathione; GSNO,
S-nitrosogluthatione; GSNOR, GSNOR reductase; ET, ethylene; ETresp, ethylene response; Met, methionine (!: 促進; T:阻害).

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