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-植物鉄栄養研究会-


NPO法人
19生都営法特第463号
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S-NitrosoglutathioneはアラビドプシスのNO(一酸化窒素)の下流の鉄欠乏シグナル伝達に働く

Date: 2018-09-27 (Thu)

S-NitrosoglutathioneはアラビドプシスのNOの下流の鉄欠乏シグナル伝達に働く

S-Nitrosoglutathione works downstream of nitric oxide to
mediate iron-deficiency signaling in Arabidopsis
Sakthivel Kailasam, Ying Wang, Jing-Chi Lo, Hsin-Fang Chang and Kuo-Chen Yeh,
The Plant Journal (2018) 94, 157–168

鉄は植物の成長と発達に必須である、鉄のシグナルに関して、鉄欠乏の感知から鉄吸収のプロセスまでの知見は作物の改良に欠くことができない。
   
われわれは化学的スクリーニング法で低分子化合物である R7と命名した 3-amino-N-(3-methylphenyl)thieno[2,3-b]pyridine-2-carboxamide
named R7 (‘R’は repressor of IRON-REGULATED TRANSPORTER 1の意味)を アラビドプシスで鉄ホメオスタシスを調節している化合物として同定した。
    
植物をR7で処理すると、鉄含量が低下し、さらに鉄欠乏条件にすると、激甚なクロロシスを誘起した。転写分析の結果、従来から言われている中心的な転写因子FIT(FER-LIKE IRON DEFICIENCY INDUCED TRANSCRIPTION FACTOR)とそのサブグループである Ib bHLH(Ib basic helix–loop–helix:bHLH38/39/100/101)をR7がターゲットにしていることが分かった。これらはFIT依存的な転写経路である。
     
培地にS-nitrosoglutathione(GSNO)をNO供与体として与えると R7による鉄欠乏阻害から回復した。しかしNO供与体であるnitroprusside (SNP) や S-nitroso-N-acetyl-DL-penicillamine (SANP)にはその効果はなかった。
     
R7は根の細胞でのNOやグルタチオンレベルを阻害せず、GSNOレベルを低下させた。NOがFIT経由の転写ネットワークばかりでなくIb bHLHネットワークの制御に関与していることを示した。
     
さらに、グルタチオンのニトロ化合物であるGSNOは特異的に鉄欠乏シグナルをFITに伝達することを明らかにした。これはNOからIb bHLHへの直接のシグナル伝達と異なる。
我々の研究結果はNOと鉄欠乏応答の分子レベルでの連携を子細に明らかにしたものである。ここに、アラビドプシスにおいて、NOから下流の鉄欠乏応答の引き金としてGSNOが働いているという新しいシグナル伝達経路を提示する。
    
Keywords: Arabidopsis thaliana, chemical biology, iron-deficiency signaling, nitric oxide, S-nitrosoglutathione.
  
  
図7.鉄欠乏シグナル伝達と転写レベルでの応答
鉄欠乏で根のNOとGSHレベルが誘起される。上昇したNOレベルが
GSHのニトロ化化合物であるGSNOを通じてFITの転写の引き金を引く。
低分子R7はGSNOの貯槽レベルを直接的か間接的に阻害して、FITに至る鉄欠乏シグナルを特異的に阻害する。そればかりでなく、NOはサブグループであるIb bHLH 遺伝子群(bHLH38/39/100/101)をGSNOと独立に転写制御する。FITとおのおのの転写因子Ib bHLHはダイマーを形成し、鉄獲得遺伝子(IRT1 and FRO2)の遺伝子発現を制御する。四角で囲ったのは遺伝子で色付きの囲いはタンパクである。白い矢印は翻訳過程である。





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R7の化学構造