WINEP

-植物鉄栄養研究会-


NPO法人
19生都営法特第463号
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「IRON MAN」 は植物の鉄輸送をコントロールする偏在(ユビキタスな)ペプチドファミリーである

Date: 2018-09-17 (Mon)

IRON MAN は植物の鉄輸送をコントロールするユビキタスなペプチドファミリーである
IRON MAN, a ubiquitous family of peptides that control iron transport in plants

Louis Grillet, Ping Lan, Wenfeng Li, Girish Mokkapati & Wolfgang Schmidt
doi: https://doi.org/10.1101/351635
 

この論文は3年3か月じらされたのちに Nture plantsに掲載された。


まえがき(後半部分の抄訳)

地上部からのシグナルが根の鉄吸収を制御している、ということは過去20年以上
もの間、鉄を集積する形質を有する大豆の”dgl”変異株を用いた接ぎ木法で実証されていた。
アラビドプシスでは、frd3やopt3の変異株では、それぞれ鉄の根から葉への移行の欠失と、鉄の師管への積み込みの欠失からくる、鉄の吸収促進という例から、そのようなシグナルが備わっている証拠があった。
しかし、「葉の鉄の状態の情報を根に伝える長距離輸送シグナルの性質」ついては、永いあいだ植物の鉄栄養研究では迷宮入りであった。
窒素欠乏の根ではC末端に15アミノ酸残基をコードしたペプチド(CEPs)がleucinerich repeat receptor kinase CEPRを活性化することが知られている。
CDPRはおそらく師管に局在する クラスIII タイプのglutaredoxin CEPD1
をリン酸化し、それがその後、師管から内皮に移行する能力を身に着ける。
どのようにしてCEPD1が 硝酸吸収トランスポーター “NRT2.1”の発現の引き金を引くのかはまだ分かっていない。
ここに我々は師管で発現している、おそらく師管の中を動いているシグナルでアラビドプシスの鉄吸収をコントロールしている新しいペプチドファミリーを発見したことをのべる。これはおそらく被子植物Magnoliophyta間に共通の鉄シグナル成分である。
このファミリーは17アミノ酸残基のコンセンサスモチーフをC末端に含むものであり、このモチーフは被子植物間で高度に保存されており、土壌からの鉄吸収の引き金となるのに必要かつ十分なものである。



     

(要約)

鉄は植物充分に供給されない場合は植物の成長や、収量や、栄養的品質に深刻な影響を与える。

地上部のシグナルによって根の鉄吸収が制御されているということが接ぎ木法で鉄集積系統の大豆変異株dglによって示されてから20年以上経過した。ラビドプシスではそのようなシグナルの存在が、根から地上部への鉄の移行能力の欠失や、師管への鉄の積み下ろし能力が欠失するということは、それぞれ変異株frd3と 変異株opt3で示されていた。しかし葉の鉄の存在状態を根に伝える長距離輸送情報の実体が何であるかは鉄栄養研究の長い間の謎であった。
    
  例えば、窒素源が絶たれた根ではC―末端の15アミノ酸残基のファミリー(CEPs)がleucine-rich repeat receptor kinase CEPRを活性化する。CEPRは師管に局在するクラスIII glutaredoxin CEPD1をリン酸化し、これが結果的に師管から出て内皮に移行する。どのようにしてCEPD1がNRT1.1, NRT2.1 and NRT3.1などの硝酸吸収トランスポーターの発現の引き金を引くのかは、まだ謎であるが。
  
  この論文では、師管で発現していて多分アラビドプシスの鉄吸収の師管を移動するシグナルであり、これがたぶん被子植物の共通成分であると思われる新しいペプチドファミリーを発見したので報告する。


我々はこの報文で被子植物のなかで数多くの高度に多様なペプチド類のC-末端アミノ酸残基に共通のモチーフ(IRON MAN; IMA)が保存されているが、これが植物の鉄獲得にとって必須であることを示す。
  
  下記のIMA配列をアラビドプシスで過剰発現させると根での鉄吸収遺伝子群を誘導し種子をはじめとする植物の全組織で鉄とマンガンの蓄積が起る。アラビドプシスゲノムのIMA遺伝子発現を抑制すると鉄吸収が無効になり深刻なクロロシスが起こった。この時鉄供与を増加させるかIMA1遺伝子を過剰発現させると野生型の表現型に復帰した。
  
  At1g47400は G-D-D-D-D-x(1,3)-D-x- A-P-A-Aという共通のアミノ酸配列を持っており、この配列を IRON MAN (IMA) と名付けた. アラビドプシスのゲノムには8つの IMA遺伝子があり、それらはすべて鉄の供与に応答した。 特にAtIMA1 (At1g47400)、 AtIMA2 (At1g47395) 、 AtIMA3 (At2g30766)の3つは葉と根で鉄欠乏で強く発現した。
   
  この保存配列領域がIMAタンパクの作用部位であるということを確かめるために、IMA1の17C-末端アミノ酸残基の上流に開始コドンをつけて過剰発現させた。通常の条件下でこのコンストラクトはIMA1の過剰発現系統(Ox line)と同様な三価鉄還元酵素活性を示した。同様にして作成したほかの7つの合成IMAも強弱はあれ同様の傾向を示したので、IMA配列は遺伝子間でのリダンダンシー(冗長性)を持つと思われた。
   
  これらの結果からIMA1のIMAモチーフは根での鉄吸収に必要かつ十分であることが分かった。IMA1は主として師管で、どちらかといえば葉で、正逆接ぎ木法によると地上部のMA1ペプチド類は根の鉄吸収をポジテイブ(正)に制御していた。IMAのホモログは鉄の存在状態に応答し、異種間でも発現が作動した。
     
  IMAは陸生植物の鉄獲得と鉄の細胞内ホメオスタシスに本質的なペプチドファミリ―と考えられる。
  

(実験方法など略)  
   
      
(論議)
本論文で、我々は高度に鉄応答性の新規なペプチドファミリーを同定したが、このC-末端アミノ酸配列のモチーフは鉄吸収にとって欠くことのできないものである。

このIMAペプチド類をコードする遺伝子をデータベースから検索すると、利用可能なデータすべての被子植物に存在するので、花が咲く植物にモチーフが保存されていると考えられる。
  
鉄欠乏下で強く発現しているにもかかわらず当初はIMAペプチドが一つのファミリーであることが認識できなかった。それは、いくつかの制約のために共有するコンセンサス配列として同定することができなかったためである。
   
IMAペプチドをBRAST検索にかけるとN末端配列が高頻度に変動していること、1つのAsp残基が伸びている程度の複雑性が検索アルゴリズムのモチーフを覆い隠すこと、モチーフの中間に存在する高度の変動するアミノ酸類による空隙、ORFサイズが23〜86アミノ酸にまで大きく変動していることなど、様々な検索に関わる妨害要因があった。
   
面白いことに、部分的なIMAモチーフは alphaproteobacteria 例えばAgrobacteriumTumefaciensのような植物と相互作用して鉄獲得する主要なレギュレーター(制御因子)であるrirAのC-末端にも、Streptomyces バクテリアのTonB(鉄シデロフォアリセプター)にも見出された。
  
アラビドプシスのゲノムには8つのIMA遺伝子が含まれており、そのうちの6つがnon-coding RNAs (IMA3–8)と思われる。これらは、
小さなサイズのORFとorthologueが存在しないというBLAST解析から予測したものである。
   
IMAのコンセンサスアミノ酸配列は高度に保存されていること、ペプチドN末端の保存されていない配列を取り除いた場合にもIMAモチーフが作動する事などは、IMAsがペプチドレベルで作用することを強く支持している。
この仮説はIMA1とIMA3メッセンジャーRNAをgenome-wide ribosome profiling surveysで翻訳して観察されたことによっても傍証された。
   
しかし、植物に内在するIMAsは抗体でも質量分析でも検出されなかった。
  
このことはペプチドが本来不安定なのか、転写産物からの翻訳レベルが低いためか、その両者なのかもしれない:アスパラギン酸残基が伸長していることが、翻訳に負のインパクトを与えていた。
   
IMAsがペプチドとして働くのだということは、IMA1:EYFP融合タンパクが植物の中でFCR(三価鉄還元酵素活性)の増加させることを観測したという直接的な証明によるものである。
   
IMAsが鉄獲得遺伝子を制御しているという、詳細な分子メカニズムはまだ明らかではないが、Fe2+が結合することによってIMAペプチドが安定化し、それが鉄吸収を制御しているのだと思われる。
   
アスパラギン酸のような負にチャージした残基は数多くのタンパクと配位結合している。IMAモチーフのAspの伸び分は金属と結合する性質があるだろうと考えて実験したが、予想通りIMAペプタイドがFe2+や他の金属と結合することを示した。
  
これらの結合サイトが飽和されるとペプチドが沈殿する引き金になった。
   
IMAsは主に低鉄供給条件下で発現するので、「IMAsが不安定であるということが(根の)鉄吸収機構にネガテイブフィードバックに作用する、つまり、鉄十分条件下での師管の鉄によってこのフィードバックメカニズムは引き金を引かれるのである」という仮説を立てた。
   
このことは過剰発現系でも、ごくわずかしかEYFP:IMA1融合タンパクが集積しないこと、内生IMAペプタイドの検出が困難なこと、野生型の接ぎ穂からのIMAsの効果がima8x 台座のFCR活性に対して比較的適度な程度であることなどをよく説明できている。
  
いくつかの被子植物において鉄欠乏に応答するIMAをコードする遺伝子群は発現が実質的に誘導されることから、IMAファミリーのペプチドの作用が鉄ホメオスタシスの点からも種間で保存されていることを示唆している。
  
IMAs遺伝子発現は銅(Cu)または亜鉛(Zn)欠乏では制御されておらず、いくつかの良く確立された鉄(Fe)に特異的な制御遺伝子発現と高い相関がある。
 
IMAモチーフを過剰発現させると植物が適当な鉄栄養条件下で作動している鉄吸収抑制を無効にして、根の細胞の鉄欠乏応答反応の引き金を引き、高親和性鉄トランスポーターであるIRT1の第一や第二の基質である Fe2+, Mn2+, Zn2+ などの根における含量を高め、なおかつ地上部での含量も高める。
  
他方では、ima8x変異株のすべてのIMA遺伝子をサイレンシングすると鉄供給の急激な欠損と、鉄欠乏応答能が失われて、枯死に至る。
  
であるから、いまやIMAsは細胞の鉄ホメオスタシスの統合成分を代表するものであると考えられる。これはアラビドプシスのような還元型戦略(Strategy-Iタイプ)を選択した種に限定されるものではないだろう。

我々のデータはさらにIMAペプチドのレベル(ここでは階層と訳すべきか)が種特異的鉄獲得機構の上流に作用して鉄獲得の指令塔に位置することを示している。
 
ima8x変異株の強い表現型を用いた実験では、機能性IMAsが、鉄十分条件下でも鉄欠乏条件下でも、細胞の鉄ホメオスタシスにとって必須であることを示している。

IMAの過剰発現系列(IMA Ox lines)の過剰鉄含量表現系は、地上部から根へのシグナルを欠損した鉄過剰集積変異株であるopt3や大豆の変異株 dglを連想させる。このことはIMAsが組織間制御に関わる鉄吸収の促進シグナルの役割を担うという推定を支持している。
   
IMAの機能は、全身的窒素シグナルとして知られるCEPD1/CEPD2の役割と類似している。このこと(を普遍化すると?)は、植物ではペプチド類が土壌から無機栄養素を獲得するときの微調整を要求するときの編成業務という決定的な役割を担っているのかもしれない。



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鉄欠乏に正に応答するIMA共通配列