WINEP

-植物鉄栄養研究会-


NPO法人
19生都営法特第463号
転載希望時は連絡先まで

ブルーベリーの鉄欠乏症:事例報告

Date: 2018-03-03 (Sat)

ブルーベリーの鉄欠乏調査の思い出
肥料化学 第39号、121−135(2017)
千葉明元岩手県農業試験場長

という論文にいくつかのブルーベリーの品種の内「スパータン」という品種が、激甚のクロロシスを呈したことを報告している。この果樹園は蛇紋岩土壌で人為的なリン酸過剰投与による鉄の可給態の低下で、鉄吸収含量が低下しているためだと推測している。千葉氏は対処療法を現地実験できずに退職されている。
非常に示唆的な論文なので以下に要約だけ無断転載させていただく。
   
要約
  
平成19年から21年にかけてのごく短い期間であったが、盛岡市黒川の優れたブルーベリー栽培農家の峰崎勇一氏の圃場を調査する機会に恵まれた。
 調査圃場は30アールでブルーベリー5品種が並植されている見事な圃場であった。そこでまず畑の状態を知る手始めとして、土壌の化学分析を行ったところ、交換性塩基,有効態リン酸等いずれも極めて多く、その値は県(岩手君)の指標としているブルーベリー園目標好適値とは大きく離れていた。このような結果からリン酸過剰による鉄欠乏症、あるいはカリ過剰による苦土欠乏症のはっせいなど生じないか気にかかったが、当初その兆候は見られなかった。しかし、観察を続けているうちに、並列に植えられている品種の中に枝の伸長が悪く葉にクロロシスのみられる品種のあることがわかり、これは当初懸念された鉄欠乏に由来するのではないかと葉分析を行った。葉分析は全品種にわたって行ったが、クロロシスから黄化葉にまで症状の進んだ品種スパータンでは、明らかに鉄が欠乏状態にある他、リン酸、カリ含有率が異常に高く、その結果Fe/P,Fe/Kの値を小さくして鉄欠乏を助長するという説を裏付けるような結果であった。なお。、スパータン以外の品種でもいずれも葉中の鉄含有率は低かったが、鉄欠乏の症状は見られなかった。
 また、スパータンだけがクロロシスに発生が著しかったので、改めて全品種の樹下の土壌も分析し、差がないかを検討したが、差は認められず、このことより、スパータンは品種特性として鉄欠乏をお起こしやすい品種と考えた。
 最後にこれまで見られた鉄欠乏の発生の原因は、長い間つづけられていた前作のリンゴの施肥による影響とみて新たに古いリンゴ園のリンゴの大木を伐採してブルーベリーを新植する圃場の土壌分析を行ったところ、やはりリン酸が著しく富化されていることが知られた。
 以上の事からリンゴ畑からブルーベリー畑に転換する場合、圃場の土壌条件や品種について、一応の配慮は有用であると考えた。そして平成21年から対策試験を行うことを考えた、しかし、そもそもの鉄欠乏の原因は土壌のリン酸過剰にあると見られたので、根本的な改良は容易ではなく、鉄の葉面散布、あるいは鉄のキレート資材の土壌施用、そして品種対策と、従来とられている方法以外にはないと考えていた。

photo
ブルーベリーの鉄欠乏症