WINEP

-植物鉄栄養研究会-


NPO法人
19生都営法特第463号
転載希望時は連絡先まで

ニコチアナミンの古くからのルーツ

Date: 2020-11-09 (Mon)

ニコチアナミンの古くからのルーツ:ニコチアナミン様メタロフォア(金属キレート化合物)の多様性、役割、制御、および進化
The ancient roots of nicotianamine: diversity, role, regulation and evolution of nicotianamine-like metallophores

Cle´mentine Laffont and Pascal Arnoux

Metallomics, 2020, 12, 1480-1493

(要旨)
  
ニコチアナミン(NA)はすべての植物によって合成される代謝産物であり、鉄、ニッケル、亜鉛などの様々な微量元素のホメオスタシスに関係している。
 
ある種の植物では細胞外鉄回収に用いられるファイトシデロフォアの前駆体としての役割を持っている。
 
先行研究ではNAは糸状菌やコケ類にも存在することが明らかになっており、一方ではNA類縁体がアーキア(古細菌)にあることが推測されている。
 
つい最近NAの類縁体であるopine-typeのメタロフォアがバクテリアから検出された。それらは特にヒト感染菌であるStaphylococcus aureus, Pseudomonas aeruginosa や Yersinia pestisであり、それぞれstaphylopine, pseudopaline とyersinopineを生合成する。

本報ではこれらのメタロフォアについてその発見、生合成、作用、および制御についての現段階までの知見を総説する。
 
我々はまたNA合成酵素(NAS)遺伝子のホモログであるcntL遺伝子がNA様メタロフォアの合成に中心的役割を果たしている、その遺伝子のゲノムの周辺環境について論議する。
  
これによって生合成、排出経路や吸収経路の広い多様性を明らかにする。
   
塩基配列の類縁ネットワークを用いて、これらのメタロフォアが、宿主−寄生の界面ばかりでなく土壌中など、非常に異なる環境で繁栄するおびただしい種類のバクテリア
などに広域に分布することを明らかにした。
   
かてて加えて我々はNAS/cntLの系統樹を作成し、その結果、この遺伝子が古い遺伝子であり、NAやその類縁体が古来のメタロフォアであり金属吸収や金属耐性に主要な役割を担っていたという仮説を提唱する。
  
実際、われわれの系統樹解析から以下の進化モデルが示唆される。このメタロフォアの合成の可能性は生命の起源の初期から存在しており、金属欠乏や宿主―寄生界面や、ある種の土壌などで金属欠乏になる場合を除いて、その後の多くの微生物からは消失した。
   
われわれのモデルから言えることは、NAはカビやコケやすべての高等植物の金属ホメオスタシスに中心的な代謝産物として進化的に再度復活登場したものである。
   
    
   
以下は論文の「結論」部分の翻訳
  
S. aureusにおけるニコチアナミン様メタロフォアの発見はいくつかのバクテリアによる新しい金属獲得経路の発見につながった。
これらのシステムは、メタロフォアの合成、それの細胞外空間への排出、金属類または金属メタロフォア化合物の回収など、あたかもシデロフォアのように作用している。
  
P. aeruginosa と S. aureusではこれらのシステムは,生育培地におけるキレート力に依存した必須元素の金属の吸収効率化に関与している。
   
亜鉛は両方のバクテリアでZurによって制御されている一連のこれらのシステムで獲得される通常の元素である。
  
しかしFurもS. aureusにおけるこの経路の制御因子であるので、この事は、この元素(鉄)が恐らく還元型でstaphylopineの標的元素であることを意味しているだろう。
  
実際、この事はstaphylopineの発見当初に示唆されており、pseudopaline経路を含むP. aeruginosaの鉄欠乏と亜鉛吸収の相互作用の最近の発見は、鉄と亜鉛の保存性の連関があることを示唆している。
  
ニコチアナミン様メタロフォアの多様性はバクテリアではこれまでは異なる4種類に限られていたが、これらの生合成の支配ルールを確立した。
  
しかし我々のこれまでのcnt経路分析syntenyに基づけば、疑いもなく将来さらなる多様性が明らかになるだろう。
  
特にバクテリアとアーキアのcntオペロンのゲノム配列が極めて可塑性を帯びているという発見は、これらのメタロフォアの金属吸収とか抵抗戦略におけるマルチな異なる役割に対して、研究のドアを開くものである。
   
ニコチアナミン類縁体メタロフォアとシデロフォアの類似性から考えて、類縁体の新規のニコチアナミン様作用が予想される。メタロフォアを生産しない種がメタロフォアを生産する種によって、利益を得るというキレート作用。メタロフォア生産が生産者と受容者の両者に直接的利益を与える時に起こる拮抗作用や共同作業などの新しいニコチアナミン様作用の発見が予想される。
   
メタロフォアの検知が例えば出芽などの防御機構のトリガーのシグナルとしても機能し得る。
  
最近ではニコチアナミンがMedicago Truncatulaの共生的窒素固定を維持することを助けていることが見出された。このことはこのメタロフォアが種間の交互作用と共生に対する役割があることを実証している。
   
バクテリアでのニコチアナミン類縁体メタロフォアの最近の発見は、今や金属獲得戦略に限らないそれ以外の新しい役割を解明する方向の道を歩み始めている。



(図1の説明)

本総説で議論しているNSAやNA類縁体の構造式と金属との安定度定数。EDTAとも比較している。
化合物の構造を構成単位によって色分けしている。SAM からのaminobutyrate (黒), L-型と D-型のhistidine (それぞれ緑と赤), pyruvateと a-ketoglutarate (それぞれ青と赤紫)。
  
(図2.の説明)

staphylopine–Ni2+の3D 構造モデル。ペリプラズムにとどまっているCntAタンパクとstaphylopineが複合体を形成している構造から採取したもの。真正staphylopineは星印で示したC原子で鏡面対象の立体構造を持っていることに注意。
 

   
(図3.の説明)

ニコチアナミン類縁体メタロフォアの、植物、アーキア、バクテリアでの多様性。
植物ではニコチアナミンはSAMが3分子縮合で合成されるが、aminobutyrate部分(黒色)だけが使用される。
アーキアでは、2つのSAM由来のaminobutyrateがグルタミン酸と結合してtNAを合成する。
バクテリアではCntKがあるときは、NAS/CntL 酵素により、L- または D-histidineが一つのSAMのaminobutyrate骨格と結合する。その後、この中間産物はα-ketoacidであるpyruvateかα-ketoglutarateと結合する.
これらの生合成酵素の構造はCntL (archeaから), CntK and CntM (S. aureusから)から得たものである。

photo
図1

photo
図2

photo
図3