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-植物鉄栄養研究会-


NPO法人
19生都営法特第463号
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転載: スポーツ貧血治療の実際

Date: 2019-10-22 (Tue)

スポーツ貧血治療の実際
   
一般社団法人二本スポーツ内科学会代表 田中祐貴
第43回日本鉄バイオサイエンス学会学術集会 プログラム・抄録集
2019/9/20−21
   
   
スポーツ内科とは、「運動・スポーツにより生じる内科的問題の予防・治療を行う」分野である。運動・スポーツは適度に行えば健康に良いのは自明だが、強度の高いトレーニングを継続するアスリート・運動愛好家は、内科的問題から不調に至ることも少なくない。
 スポーツ貧血はアスリートに最も多いスポーツ内科疾患である。スポーツ貧血になると、酸素運搬能力が低下し、いきぎれなどの症状やパフォーマンス低下を引き起こす。主な原因は「鉄欠乏」であり、その他「エネルギー不足」「溶血」などが関与することがある。「鉄欠乏」はさらに「鉄需要増加」「鉄摂取不足」「鉄喪失増加」に分けられる。講演では、鉄代謝調節ホルモン「ヘプシジン」にも触れつつ、原因について詳説する。
 診断には、ヘモグロビン(Hb)、血清鉄、フェリチン(貯蔵鉄の指標)などの測定が必須である。私は、男性アスリートでHb14.0g/dL、フェリチン30 µg/Lを、女性アスリートでHb12.5g/dL、フェリチン20 µg/Lを正常下限とする立場をとっているが、検査値だけでなく症状やパフォーマンス低下の有無や程度、前回測定値からの変化なども加味して総合判断する必要がある。
治療は「食事療法」と「薬物療法(鉄剤内服)」に分けられ、検査値、症状、今後の練習/試合のスケジュールなどからアスリート本人と相談し方針を決定するが、フェリチン12ng/mL未満の症例については、薬物療法を選択することが多い。
スポーツ貧血は十分なエネルギーと鉄の摂取で大部分が予防可能だが、時に重症例や鉄剤不応症例に出会ったり、「ヘプシジン」のような新たな知見もあったり、非常に奥深い。スポーツ内科医やスポーツ栄養士らが連携を取り、地域・世代・競技など問わずスポーツ貧血を抱えるアスリートへの診療/サポート体制の構築を進めている。