イネとコムギ種子の遺伝学的鉄含有量の強化：遺伝子から成果物へ

イネとコムギ種子の遺伝学的鉄含有量の強化：遺伝子から成果物へ
Genetic Biofortification to Enrich Rice and Wheat Grain Iron: From Genes to Product
Yvonne Ludwig and Inez H. Slamet-Loedin
Trait and Genome Engineering Cluster, Strategic Innovation Platform, International Rice Research Institute,
Los Baños, Philippines


要約

鉄（Fe）は植物の生存や増殖に必須の微量元素であると同時に、健康な人間の成長と発達にとっても必須である。
イネと小麦は共に世界的に主要な食品である。残念なことに広く普及しているイネやムギの品種は非常に少ない鉄含量であり、しかも鉄の大部分が外部のぬか層に含まれている。
残念ながら、高鉄含有イネやコムギの遺伝子資源が得られていないので両者の鉄系統を古典的な育種法で発展させる可能性には限界がある。
鉄の土壌施用や葉面散布による栽培学的な鉄含量の増強法は種子中の鉄含量を有意に増強するには可能性はあるが挑戦的であり限界がある。
これに対して、近年の種々の遺伝学的生物学的強化法の成功は、鉄富化穀物種子の開発を可能にし、もし、概念の証明から成果を得るまでのロードマップと、それが採用されることになるかどうかによって　“隠れた飢餓”　の問題解決に貢献できる。
ここでは、我々は異なる遺伝子操作によるイネとムギの生物的強化戦略とその道筋に光を当てて紹介する。
　
　　
下図の説明
　
イネの鉄の吸収、移行、貯蔵に関する基本的な体系。提示しているのはイネ体内での鉄の吸収、移行に関与する既知の遺伝子群。　
TOM1, transporter of mugineic acid family phytosiderophores 1; YS1, yellow strip1; YSL15, yellow stripe 1-like; IRT1, iron-regulated transporter; OsNRAMP1, natural resistance-associated macrophage protein 1; OsFRDL1, ferric reductase defective like1; ENA, efflux transporter of nicotianamine; OsVIT, vacuolar iron transporter; OsFER, ferritin; MA, mugineic acid; DMA, 20-deoxymugineic acid; NA, nicotianamine; SAM, S-adenosyl-L-methionine; NAS, nicotianamine synthase; NAAT,
nicotianamine aminotransferase; DMAS, deoxymugineic acid synthase.
　　
　　
その下の２枚の表は、世界中の研究者によってこれまでに行われた「遺伝子組み換え体」作出のこれまでのデータの表です。