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-植物鉄栄養研究会-


NPO法人
19生都営法特第463号
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bHLH因子であるILR3はアラビドプシスの鉄の利用性に応答する転写を統合する

Date: 2019-07-26 (Fri)

bHLH因子であるILR3によるアラビドプシスの鉄の利用性に応答する転写的統合

Transcriptional integration of the responses to iron availability in
Arabidopsis by the bHLH factor ILR3
Nicolas Tissot, Kevin Robe, Fei Gao, Susana Grant-Grant, Jossia Boucherez, Fanny Bellegarde , Amel Maghiaoui, Romain Marcelin, Esther Izquierdo , Moussa Benhamed, Antoine Martin, Florence Vignols , Hannetz Roschzttardtz , Fr_ed_eric Gaymard, Jean-Franc_ois Briat and Christian Dubos
New Phytologist (2019) 223: 1433–1446
doi: 10.1111/nph.15753

(要旨)
〇 鉄のホメオスタシスはすべての生物にとって本質的である。哺乳動物では統合的な転写後制御機構が鉄欠乏と鉄過剰の制御にカップルしている。
植物において鉄欠乏と鉄過剰の両者に応答して制御する共通のプレイヤーに関係する統合的機構はまだ明らかでない。

〇本研究では分子、遺伝子、生化学からアプローチして、鉄欠乏と鉄過剰の両者に応答する転写因子を調べた。アラビドプシスの貧鉄栄養条件下で応答する転写活性化因子bHLH105/ILR3が、同時に植物の鉄過剰に応答するマーカー遺伝子であるフェリチン遺伝子群の発現を負に制御していることを見出した。
さらに研究を進めるとILR3は鉄ホメオスタシスをコントロールする作用のあるいくつかの構成的遺伝子群の発現を抑制していることが分かった。
ILR3は標的遺伝子のプロモーターに直接相互作用し、bHLH47/PYEとダイマーを作って抑制活性を発揮する。この研究は鉄欠乏あるいは鉄過剰下における植物の生育がILR3に依存するという重要な側面に光を当てるものである。

〇まとめると、ここに提示したデータはILR3はアラビドプシスの鉄ホメオスタシスの転写制御ネットワークをコントロールするセンターに位置し、そこで転写活性化因子として、また転写抑制因子として、両者の作用をしていることを支持している。

以下
 
図1 の説明
  
ILR3を経由してコントロールされる鉄ホメオスタシス。
   
ここに提唱しているモデルは生育培地における鉄の利用性の変動に対する応答をコントロールするILR3/bHLH105による二つの役割を示している。
ILR3と相互作用するパートナーに依ってILR3は転写活性化因子としも、転写抑制因子としても働く。
ILR3-依存性活性化複合体はILR3とbHLH34・ bHLH104 ・ bHLH115の複合体である。
ILR3 ,bHLH34, bHLH104 ,bHLH115はいずれも分子系統樹上ではbHLHのIVc型に属する。
ILR3による転写抑制活性はPYE/bHLH47 (IVb型)とのヘテロダイマー形成に依っている。
PYEの転写活性発現ばかりでなく植物の鉄欠乏応答を制御するその他のbHLH転写因子、例えばbHLH39,(clade Ib型)はILR3に依存する活性化複合体に依存している。
ILR3-PYE複合体による負のフィードバック制御ループは、鉄の利用性が制限されていない場合は、PYEの発現を抑制しているようである。
FIT/bHLH29は鉄欠乏に応答するもう一つのキーとなる転写制御因子である。この転写活性は構成的または、鉄ホメオスタシスを維持するために必要な制御的遺伝子(例えばMYB10 と MYB72)の発現を調節している。
FITの転写活性の一部は ある種のIb bHLH型転写因子(bHLH38, bHLH39, bHLH100, bHLH101)とヘテロダイマーを形成する活性に依存し、その安定性はIVa bHLH 型転写因子群との相互作用の影響を受ける。
ILR3によって発現が調節されている構成的遺伝子群とは、鉄獲得(例えばIRT1, FRO2, AHA2)、鉄輸送(例えばNAS4)、鉄の貯蔵(例えばAtFER1, AtFER3, AtFER4, VTL2)、集積(例えばAt-NEET)に関与しているものである。
ILR3依存的な活性はBTS(BRUTUS)による活性によって調節されている。BTSはE3 ubiquitin ligaseであり、
IVc bHLH型転写因子群を特異的に標的としており、最終的にはこれらは26Sプロテアゾームで分解される(bHLH34のみは例外であるが)。
BTSの発現は鉄欠乏で誘導され鉄吸収を微調整し、植物にとって有害な過剰集積を回避する。
BTSはhemerythrin(HHE)ドメインを通して鉄(Fe)と相互作用して、不安定化する。
このモデルではILR3と BTSが、鉄ホメオスタシスを制御している転写機械を、コントロールするのに中心的な役割を果たしていることを示した。

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