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-植物鉄栄養研究会-


NPO法人
19生都営法特第463号
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秋田県立大学などが「セシウムの吸収を大幅に低減できるイネの開発に成功」

Date: 2017-07-31 (Mon)

以下秋田大学の記者会見での配布資料からの重要部分の転載です。

  
研究経過
    
研究グループは突然変異集団からのスクリーニングという順遺伝学的なアプローチでセシウムを吸わないイネを探索しました。その結果、極端にセシウムを吸わないイネが確かに存在することを発見し、セシウムの吸収が低下している系統の原因遺伝子の特定とセシウムやカリウムなどの吸収特性の生理学的な解析を3研究機関が共同で進めました。
突然変異を誘発させた11000系統のあきたこまちの突然変異系統(遺伝子組換えでない)を圃場で栽培し、玄米を元素分析した結果、極端にセシウムを吸わない個体が3系統あることを発見しました。この3系統は栽培試験の結果、外観はあきたこまちと大きく変わりませんが、稲わらと玄米に含まれるセシウムが親系統に対して極端に低いものの、収量には大きな悪影響がみられないことが示されました。
この系統を放射性セシウム濃度が高いカリウム欠乏圃場(作物がセシウムをもっとも吸収しやすい条件)で栽培した試験では、親品種(あきたこまち)の玄米の放射性セシウム濃度が44 Bq/sであったのに対し、検出限界の約5 Bq/kg以下となり、親品種の10%以下と玄米の放射性セシウムを大幅に低減できることが証明できました。カリウムがかなり欠乏しているこの圃場では、開花期の遅れや収穫期に稲わらが若干もろくなるなどの影響も見られましたが、収量は親品種とほぼ同等に維持されていました。
水耕栽培などで生理学的に解析した結果、得られたセシウム低吸収系統は根へのセシウムの取り込みが低く抑えられていることが明らかになりました。
3つのセシウム低吸収系統の遺伝子解析の結果、いずれの系統もカリウム輸送体遺伝子の一つ(OsHAK1)に変異があり、機能を失っていることが示されました。生理学的な解析結果と合わせ、OsHAK1はイネの根が土壌からセシウムを吸収するときの最も重要な(ほぼ唯一の)輸送経路であり、その他の輸送体を経由した吸収は極わずかであることが明らかになりました。

今後の展開
    
今回発表したセシウム低吸収系統は、イネが放射性セシウムを吸収しやすくなる低カリ条件の水田で玄米の放射性セシウムの大幅な低減効果が期待できます。セシウム低吸収系統はカリウム濃度によらずほぼセシウムを吸収しないため、従来実施されているカリウムの増肥に代わる新たな低減技術として利用できます(ただしカリ欠土壌では生育に必要なカリ分は施肥する必要があります)。
また、カリウムが比較的多い土壌条件下でも玄米のセシウム濃度は低下していることからも、従来のカリ増肥などと組み合わせてこれまで以上に安全なお米の生産に貢献できると考えています。

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