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-植物鉄栄養研究会-


NPO法人
19生都営法特第463号
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農研機構・岩手生物工学研究センター:放射性セシウムを吸収しにくい水稲の開発に成功

Date: 2017-06-05 (Mon)

以下に農研機構のホームページから転載します。

その前に少し解説しておきます。
この研究は福島第一原発事故後の2年後ぐらいから農研機構の石川覚グループで行われていたもので、まさに画期的な成果です。小生は福島第一原発事故後の学術会議主催のシンポジウムで2回にわたって水稲根のセシウムの細胞内への膜輸送にはカリウムのトランスポーターが使われている可能性が高いので、カリウムのトランスポーターが働かなくなったイネの量子ビーム変異株をスクリーニングして低セシウム吸収イネを作出すべきことを提案していました。当初は皆さん「またモリビンがほらを吹いている」という冷たい雰囲気でしたが、日本土壌肥料学会では、その後石川覚グループが量子ビーム育種で、秋田県立大では頼泰樹グループが変異原(アジ化ナトリウムやMNU)を用いてスクリーニングを行って該当遺伝子を同定しています(これらの遺伝子破壊株はカドミウムの場合のようにほぼ100%セシウムを吸収抑制するわけではないということですが)。今回の農研グループの成果はカリウムトランスポーターの破壊株に関する発表ではないですが、先駆的な新種の発明であることは間違いありません。今後、カリウムトランスポーターであるHAKやAKT1などの破壊株の低セシウムコシヒカリの発表が続くものと大いに期待されます。(森敏 記)
   
   
以下農研機構のホームページからの転載です
 
放射性セシウムを吸収しにくい水稲の開発に成功

- コメの放射性セシウム低減対策の新戦力 -

情報公開日:2017年5月31日 (水曜日)

農研機構
岩手生物工学研究センター



http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/press/laboratory/niaes/075645.html



投稿原著論文は
Satoru Ishikawa, Shimpei Hayashi, Tadashi Abe, Masato Igura, Masato Kuramata, Hachidai Tanikawa, Manaka Iino, Takashi Saito, Yuji Ono, Tetsuya Ishikawa, Shigeto Fujimura, Akitoshi Goto & Hiroki Takagi (2017) Low-cesium rice: mutation in OsSOS2 reduces radiocesium in rice grains. Scientific Reports, 7, 2432.
doi:10.1038/s41598-017-02243-9




研究の内容・意義
1.コシヒカリを元品種として、イオンビーム照射による突然変異法により、放射性セシウムを吸収しにくい「Cs低吸収コシヒカリ」を開発しました。
2.土壌中の放射性セシウム濃度が比較的高く(3,682 Bq/kg乾土)、放射性セシウム吸収が高まりやすい低カリ濃度条件(土壌の交換性カリ濃度:7.0mg K2O /100g乾土、図1のカリ施肥なし)において、Cs低吸収コシヒカリの玄米中の放射性セシウム濃度(134Csと137Csの合計)は約40Bq/kgと、コシヒカリにおける濃度の半分以下に抑制されました。さらにカリ施肥により、土壌の交換性カリ濃度を12mg K2O/100g乾土まで増加させる(図1のカリ施肥あり)と、Cs低吸収コシヒカリの玄米中の放射性セシウム濃度は20Bq/kgを下回りました(図1a)。稲わらの放射性セシウム濃度も玄米同様、Cs低吸収コシヒカリで低下していました(図1b)。
3.Cs低吸収コシヒカリでは、根のセシウム吸収が抑制されていました。その吸収抑制の原因となる遺伝子を突き止めたところ、イネの耐塩性に関わるタンパク質リン酸化酵素遺伝子(OsSOS2)の変異であることがわかりました。OsSOS2は本来塩害などのナトリウム過剰条件で根からナトリウムの排出を促す役割を担う遺伝子です。この遺伝子の変異により、セシウムの輸送体と推定されるカリウムトランスポーターを制御する遺伝子の発現が影響を受け、根のセシウム吸収が抑制されたと考えられます。
4.育成地における慣行栽培では、Cs低吸収コシヒカリの生育特性(出穂日、稈長、穂長、穂数)や収量はコシヒカリとほぼ同等でした。草姿や玄米形質も同等です。またCs低吸収コシヒカリの食味を調べたところ、コシヒカリとの間に有意な差はなく、良食味でした。
5.セシウム吸収を抑制する遺伝子(OsSOS2の変異)を簡易に検出できるDNAマーカーを開発しました。このDNAマーカーを活用することで、Cs低吸収コシヒカリと同様の放射性セシウムを吸収しにくい性質を、コシヒカリ以外の品種にも効率良く導入することができます。

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